はじめに:「吸う息」と「吐く息」と「止める息」
呼吸には「吸う息」と「吐く息」があります。そして「止める息」があることにヨーギー(ヨーガ修行者)たちは着目しました。落ち着かない心の動きを止めるには、息を止めることが効果的であると発見したのです。
ヨーギーはさらに各息の時間の長さをどのように設定すれば最も効果的かを見極め、1:4:2の割合が最適であることを発見しました。吸う息が1、止める息が4、吐く息が2の割合で呼吸することによって、呼吸法の最高の効果を得ることができます。
今回は、止める息(クンバカ)と【弐の呼吸法】1:4:2の呼吸法について、実践を踏まえながら、解説していきます。
クンバカとは?
クンバカとは、「壺」を意味するインドの言葉です。ヨーガでは、腹部を壺とイメージして吸って息を腹部に満たしていくことがあります。
満ちた息を保つことから派生して「止める息」のことをクンバカと言うようになりました。クンバカは通常の呼吸の流れに一時的な停止(クンバカ)を組み込むことで、呼吸のリズムを整え、心と身体の調和を促します。
クンバカは吸う息(吸気)と吐く息(呼気)の間に挿入され、数秒から数十秒間、一時的に呼吸を止めます。クンバカの実践によって、心の安定や寂静状態に到達することが期待されます。さらに取り込んだ酸素やプラーナ(生命エネルギー)が、全身の細胞に染み渡ります。
実践、クンバカ!
クンバカの実践方法として、腹式呼吸や完全呼吸法、さらにクンバカ中にムーラ・バンダ(肛門の締め上げ)を行う方法を紹介します。クンバカ中は、吸い込んだ息(プラーナ)が身体に染み渡るイメージを持つのも良いでしょう。
【プラクティス1】腹式呼吸でクンバカ
正しい坐法を取ってから、
①ゆっくりと息を吐いていきます。ある程度吐いたら、
②最後におなかをひきしめて息を完全にしぼり出します。
③おなかをゆるめ、さらに腹部をふくらませながら息を入れます(腹式呼吸)。
④保息(クンバカ)を行います。無理のない程度に保ちます。
①に戻り、ゆっくりと息を吐いていきます。
これらを3分から10分繰り返します。
【プラクティス2】完全呼吸法でクンバカ
正しい坐法を取ってから、
①ゆっくりと息を吐いていきます。ある程度吐いたら、
②最後におなかをひきしめて息を完全にしぼり出します。
③おなかをゆるめ、さらに腹部をふくらませながら息を入れます(腹式呼吸)。
④次いで、ろっ骨を左右に開き、胸をふくらませながらさらに息を入れます(胸式呼吸)。
⑤保息(クンバカ)を行います。無理のない程度に保ちます。
①に戻り、ゆっくりと息を吐いていきます。
これらを3分から10分繰り返します。
【プラクティス3】:クンバカの際にムーラ・バンダ(肛門の締め上げ)を行う
①ゆっくりと息を吐いていきます。ある程度吐いたら、
②最後におなかをひきしめて息を完全にしぼり出します。
③腹式呼吸、あるいは完全呼吸の要領で息を入れます。
④保息(クンバカ)を行い、その際にムーラ・バンダを行います。無理のない程度に肛門を締め上げるように意識します。
①(バンダを解いてから)ゆっくりと息を吐いていきます。
これらを3分から10分程度繰り返します。クンバカ中はムーラ・バンダがゆるまないように意識しましょう。
ポイント1:観察力を身につけよう
クンバカを行っている最中に、身体の内側や心を観察しましょう。
第一の黄金比【1:2の呼吸法】~吐く息の長さを倍にしよう!
第一の黄金比【1:2の呼吸法】は、吸う息と吐く息の時間の最適な比率を見つけたものです。
吸う息が1、吐く息が2であり、吸う息を4秒とすると吐く息は倍の8秒になります。
✔吸う息が2倍長くなると、脳が戦闘体勢に入り、血圧が上がり緊張状態になります。
✔吐く息が2倍長くなると、脳が休息状態に入り、血圧が下がりリラックス状態になります。
【実験】2:1の呼吸と第一の黄金比【1:2の呼吸法】を比べてみましょう
次の①②の呼吸がもたらす身心への影響を比較、観察します。
①8秒で息を吸い、4秒で息を吐きます。これを数呼吸繰り返します。
②4秒で息を吸い、8秒で息を吐きます。これを数呼吸繰り返します。
ヨーギーが深い瞑想状態に入った時、呼吸のバランスがナチュラルに1:2になっていることを観察しました。それでは、意識して呼吸をコントロールして1:2にすることで、脳に「あ、今は休息(瞑想的)状態なんだ」という錯覚を与え、身心のリラックスを促すことをねらうのです。
第二の黄金比【1:4:2の呼吸法】
吸う息と吐く息の最適な割合がわかりました。さらにクンバカ(止める息)の最適な時間の長さについても発見されています。それが【1:4:2の呼吸法】です。
吸う息:クンバカ:吐く息の順番で、吸う息が4秒ならクンバカは16秒、吐く息は8秒になります。
初めから16秒も息を止めるのは難しいかもしれません。短い時間から始め、慣れてきたら徐々に時間を伸ばしていくことが大切です。呼吸法を行う上で快適さを重視し、無理をしないことです。
【プラクティス4】快適な1:4:2の呼吸法の練習方法
自分にとって快適な呼吸の長さを見つけましょう。個人によって吸う息や止める息の長さは異なります。朝と午後、体調やメンタルの状態によっても呼吸は変化することを念頭に置きましょう。
快適さを重視しながら、徐々に止める息の時間を伸ばしていきます。以下のステップを参考に、吸う息:止める息:吐く息の時間(秒数)の配分を調整していきましょう。
- ステップ①:1:1:2(4秒:4秒:8秒)
- ステップ②:1:2:2(4秒:8秒:8秒)
- ステップ③:1:3:2(4秒:12秒:8秒)
- ステップ④:1:4:2(4秒:16秒:8秒)
- ステップ⑤:1:4:2(5秒:20秒:10秒)
- ステップ⑥:1:4:2(6秒:24秒:12秒)
呼吸法の練習に取り組む際には、自分自身の感覚や快適さを重視しましょう。
①上記のステップからいくつかを試してみて、自分に合ったものを見つけ出します(ステップ①を試した場合、4秒で吸って、4秒クンバカ、8秒で吐きます)
②見つけた割合を使って、3分から10分実践してみましょう。
③もし息苦しさを感じた場合は、一つ前のステップに戻ります。逆に物足りなさを感じた場合は、次のステップに進みます。
ポイント2:呼吸の長さを微調整できる能力を身につけよう
そのときどきの自身のコンディション等に応じて、上手に呼吸の長さを微調整しましょう。ここでは上記から最適なステップをチョイスできることを意味します。
繰り返しますが、途中で苦しさを感じた場合は、一つ前のステップに戻りましょう。逆に物足りなさを感じた場合は、次のステップに進みます。
無理をせず、自分のペースで実践してください。また、呼吸法を実践していくと、自然と息の長さが伸びてきます。
松下師恩の失敗談
私自身、かつて1:4:2の呼吸法に取り組み挫折した経験がありました。
若かりし頃の私は、吸う息4秒、クンバカ16秒、吐く息8秒での呼吸法は容易にできました。その後、一気に6秒、24秒、12秒の長さでチャレンジしました。
当時、バスでの移動の際に取り組んでいました。いま振り返ると、初心者なのに環境的にもどうかと思います。
6秒、24秒、12秒はそのときに私には無理がありました。5秒、20秒、10秒のステップを十分に踏むべきでした。呼吸法は本来快適であるはずなのに、私はバスの中で一人我慢大会をしていました。当時の私は「息は長ければ長いほうが良い」と間違った考え方をしていたのです。苦しみに耐えようとし、途中で息が続かなくなったり、吐く際にあえぎ声が出たりしました。
幸いなことに、若さゆえか神経系を痛めるなどの悪影響は出ませんでしたが、1:4:2の呼吸法が苦しいものだと誤解してしまい、挫折してしまいました。
1:4:2の呼吸法で期待される効果
- 呼吸の長さをコントロールすることで、心身をコントロールし、集中力を高めることができます。
- 呼吸を止めることで心を静め、静寂な状態に導くことができます。
- この呼吸法によってセロトニンという脳内ホルモンの分泌が促され、ストレスの軽減や不安や悩みの解消、幸福感の向上につながることが期待されます。
カウントの3つの仕方
以下の方法があります。
- 心の中で数える方法:心の中で「いち、に、さん」と数えます。
- タイマーを見る方法:視覚を使います。時計を見ながら、カウントします。
- メトロノームを使用する方法:聴覚を使いますので、目を閉じて実践することができます。メトロノームのアプリや、時計の秒針の音を使うこともできます。
松下師恩の修行日記から
その後の松下は、1:4:2の呼吸法をに再チャレンジした際には、快適さを重視し、無理をしないことを心がけて練習しました。その頃の記録を一部を抜粋します。
8/15
最初は吸う息5秒、クンバカ20秒、吐く息10秒で開始したが、やや苦い。胸の中心が締め付けられる感じがある。吸う息4秒、クンバカ16秒、吐く息8秒に変更する。すると、快適に行うことができる。このときはメトロノームを使用する。
8/18 8:02
バンダを取り入れる。4秒、16秒、8秒で開始したが、呼気と吸気に十分な時間をかけたいと思った。途中から5秒、20秒、10秒に変更する。今回は苦しくなく、より深い呼吸ができて快適だった。心身の調子が呼吸にも反映されることを感じる。
8/18
5秒、20秒、10秒で完全呼吸法に挑戦する。腹式、胸式、肩と3つの部位に十分に息を入れるために、吸う息は5秒は欲しい。吐く時も最後おなかを引き締めて吐き切るまでやりたいので10秒の長さが心地よく感じた。
呼吸法クイズ
問1:クンバカはどのように実践されますか?
a) 吸う息と吐く息の間に挿入される
b) 吸う息と吐く息の割合を変更する
c) 呼吸を非常に速く行う
d) 音楽を聴きながら行う
問2: 【1:4:2の呼吸法】に期待される効果で最も適切なものはどれですか?
a) 呼吸が速くなり、心拍数が上昇する
b) 静寂な状態に導かれ、幸福感が向上する
c) 酸素の吸収が減少し、体力が低下する
d) 脳が活性化され、身体が温かくなる
問3:【 1:4:2の呼吸法】を実践する際、重要なポイントは何か?
a) 常に最長の時間でクンバカを行うこと
b) 自分に合った吸う息、止める息、吐く息の割合を見つけ、無理をしないこと
c) 呼吸の速さを最大限に増加させること
d) 息苦しさを感じても、そのままやり通すこと
まとめ
呼吸法は、私たちの心と身体に強力な影響を与えるツールです。クンバカを取り入れる1:4:2の呼吸法は、心の静寂な状態に導き、リラックスや集中力の向上に効果的です。
この呼吸法を実践する際には、自分に合った吸う息、止める息、吐く息の割合を見つけ、無理をせずに取り組むことが重要です。初心者の方は、段階的に呼吸の長さを延ばしていくことで、安心して練習することができます。
呼吸法の練習によって、心の静けさや集中力の向上だけでなく、身体全体に酸素やプラーナ(生命エネルギー)を行きわたらせる効果も期待できます。さらに、ストレスの軽減や幸福感の向上にもつながるでしょう。
自分自身と向き合い、ゆったりとした呼吸のリズムを取り戻すことで、心と身体の調和を促し、より充実した日常を送ることができるはずです。ぜひ、1:4:2の呼吸法を取り入れて、日々の生活に取り組んでみてください。静寂な空間で自分と向き合い、深い呼吸によって内なる平穏を感じてください。
【答え】問1:a) 問2:b) 問3:b)
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