【完全ガイド】コーヒー・お茶との正しい付き合い方(中)カフェインの効果とリスク

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はじめに:そもそもカフェインとは何か?

多くの人々がコーヒーや紅茶、緑茶を楽しむ理由の一つに、その中に含まれる『カフェイン』の存在があるでしょう。カフェインとは、コーヒー豆や茶葉などに含まれる天然の化合物です。エナジードリンクや栄養ドリンク、チョコレートにも含まれています。

カフェインは集中力を高め、眠気を覚ます成分として広く知られています。今回のテーマはカフェインです。この成分は本当に私たちの味方なのでしょうか?それとも、長期的には私たちに害を与える悪者なのでしょうか?この章では、カフェインの基本的なメカニズム、摂取のメリットとデメリットについて深く探ります。

修行者たちの睡魔との戦い

ブッダの眠気対策とアヌルッダの睡魔との戦い

瞑想中や説法を聴いている時にうっかり居眠りをした経験は、修行者であれば誰しも一度はあることでしょう。ブッダ(お釈迦様)の十大弟子アヌルッダもその一人でした。

ある日、ブッダが多くの聴衆に向けて説法をしていた際、アヌルッダは居眠りをしていました。彼の姿は、まるで船を漕ぐようにふらふらと揺れており、他の在家信者たちはひそひそと私語を交わし、その様子を見守っていました。

説法が終わった後、ブッダはアヌルッダを部屋に呼び、「アヌルッダよ、そなたは真理を求める心が強いからこそ、私のもとに来たのではないか。しかし今日、これほど多くの人々が見守る中で居眠りとは、どうしたことか?」と諭しました。

アヌルッダは謝罪とともに、その場で不眠不臥の誓いを立て、睡魔と戦いました。彼は目を閉じることさえ拒絶しそのために視力を失いましたが、その瞬間、心の眼が開き天眼通を得たのです。

アヌルッダのケースは特異ですが、ブッダは瞑想中の眠気対策として『経行(きんひん)』を弟子たちに推奨し、自身も実践しました。これは、集中しながらきびきびと歩くことで、眠気を飛ばし心をクリアにしながら瞑想を続ける方法です。経行は現在でも有効な修行法であり、良き眠気対策と言えるでしょう。

ラーマクリシュナの叱責とアドブターナンダの睡魔との戦い

インドでは、日の出前と日の入りの時間は、昼と夜が交わる神聖な時間とされています。ある日の夕方、弟子ラトゥ(のちのアドブターナンダ)はぐっすり眠り込んでいました。ラーマクリシュナはそれを見つけると、ラトゥを起こし、厳しく戒めました。

「夕方に眠ったら、いつ瞑想するのだ? 気づかないうちに夜が過ぎるくらいに深く瞑想しなければならないのだ。神聖な時間なのにお前のまぶたは眠りでふさがりそうになっている。お前はここに寝に来たのか?」

ラトゥ自身、後にこのように語っています。 「師のお言葉を聞いて私が陥った深い悲しみをどうあらわしたらよいだろうか? 『私はなんと哀れな人間だろう』と思った、『こんな神聖なお方のそばにいるというまれな祝福をいただきながら、時間を無駄にしている』

私は心を鞭打ち始めた。思い切って目に水を打ちかけ、ガンガーの河辺を足早に歩き出した。体が火照ってくると、戻って師のおそばに座った。またうとうとしたら、また歩き出した。こうして私は一晩中戦ったのだ。戦いは次の晩も続いた。ひどい戦いだった。日中、眠りが私の目を打ち負かしたが、私はあきらめなかった。戦いは昼も夜も続いた」

カフェイン摂取のメリットと効果的な取り方とは?

カフェインが眠気覚ましに効くメカニズム

人間の三大欲求の一つである睡眠欲、この欲望との戦いは修行者にとって避けられないものかもしれません。カフェインが多くの宗教家たちに重宝された大きな理由は、その強力な眠気覚ましの効果にあるでしょう。一般の人々においても、特にコーヒーは、安価で手軽にカフェインを摂取できることから、眠気を覚ますための定番アイテムとなっています。

カフェインが眠気を覚ますメカニズムは、『アデノシン』という物質に関係しています。私たちの身体は、エネルギーを消費する過程でアデノシンを生成します。このアデノシンは睡眠物質とも呼ばれており、この体の燃料の燃えがらが脳内に蓄積すると睡眠が引き起こされるのです。

しかし、カフェインはアデノシンと似た構造を持ち、先に脳のアデノシン受容体に結合してしまいます。これにより、アデノシンが脳に作用するのをブロックし、結果として眠気が抑えられるのです。

要するに、カフェインは眠気発生を司るアデノシンの働きを一時的に阻害し、覚醒状態を保つことで、集中力を切らさない効果を発揮するのです。

知っておきたい! カフェインのメリット

カフェインには、眠気覚ましや集中力向上以外にも多くのメリットがあります。

①疲労感を和らげる
カフェインはアドレナリンの分泌を促す働きがあります。その興奮作用によって、疲労を感じにくくし、作業効率を高めます。

②むくみを予防する
カフェインには利尿作用があり、腎臓の血流を促進して尿として余分な水分を排出させます。この作用により、体内に余分な水分が溜まりにくくなります。

③ダイエットや筋トレに好影響
カフェインは安静時の代謝を促進します。そればかりではなく、エクササイズ中の脂肪燃焼も高まります。さらに筋トレの効果も高め、はたまた脳を興奮させて短期的に食欲を抑えてくれる働きもあります。

④頭痛を軽減する
カフェインの血管収縮作用により、片頭痛の緩和が期待されます。市販の頭痛薬にもカフェインが配合されていることが多いのは、このためです。

⑤運動能力の向上
筋トレでも有酸素運動でも、カフェインを飲むと普段よりもパワーを発揮しやすくなります。カフェインには脳が疲労や眠気を感じるシステムを一時的にオフにする作用があるため、パフォーマンスを限界まで引き出せるからです。

知っておきたい! 主な飲料のカフェイン含有量

カフェインを安全に摂取するには、まずは飲み物に含まれるカフェインの量を把握することが大切です。以下は、一般的な飲料に含まれるカフェイン量の目安です:

●コーヒー: 60mg/100ml
●紅茶: 30mg/100ml
●煎茶: 20mg/100ml

この中では、コーヒーが最も多くのカフェインを含んでおり、紅茶はその約半分、煎茶は約3分の1の量となっています。また、エナジードリンクでは、製品によってカフェイン量に大きな差があり、100mlあたり32mg~300mgと幅広く、要注意です。さらに、お茶の中でも玉露は非常に多くのカフェインを含み、驚くべきことに160mg/100mlもの量になります。

カフェインはココアやチョコレート、コーラ、そして一部の頭痛薬などにも含まれています。これらの数値はあくまで目安であり、飲料の種類やブランド、淹れ方によっても異なることがあります。自分が日々どれだけのカフェインを摂取しているか、ぜひ一度確認してみてください。

それでは、カフェイン摂取量の上限は?

カフェインの適切な摂取量は、個々の体質や体重によって異なります。一般的な目安としては、以下の計算式を参考にしてください。

●1回の摂取量: 体重 × 3mgまで
●1日の摂取量: 体重 × 6mgまで

例えば、体重60kgの人なら、一度に摂取できるカフェイン量の目安は180mg、1日の摂取上限は360mgとなります。これは、マグカップ1杯(200ml)のコーヒーで約3杯分に相当します。

カフェインを摂取すると、効果はおよそ30分後から現れ始めます。特定の時間に効果を発揮させたい場合、30分くらい前にカフェインを摂取することで、最適なタイミングで効果を得ることができます。もちろん個人差があるので、いろいろなタイミングを試してみるといいですね。

一度摂取したカフェインは、体内に比較的長く留まり、血中濃度が半減するまでに2~8時間と幅があります。夕方以降の摂取は、睡眠に影響を及ぼす可能性があるためカフェインを控えるのが賢明です。

カフェインの効果を最大限にする摂取のタイミングとは?

カフェインを最大限に活用するには、摂取のタイミングが鍵となります。以下のシーンの前に、カフェインを取り入れてみるのもいいでしょう。

①本番の前: 重要な会議や試験の前にカフェインを摂取すると、集中力が高まり、作業効率が向上します。

②眠気が予想される時間帯の前: 食後や運動後、運転など、眠気が出やすいタイミングのおよそ30分前にカフェインを摂取することで、眠気を防げます。

③運動前: 持久力向上や脂肪燃焼を促進するため、運動前にカフェインを摂取するのも効果的です。

④仮眠の前: 20分以下の仮眠をパワーナップ(PN)と呼び、現代ではGoogleやMicrosoft社でも推奨されています。カフェインを摂取してから仮眠を取ると、ちょうど目覚めのタイミングでカフェインが効いてくるので目覚めが爽快になります。

カフェイン摂取のリスクを最小化する方法

カフェインを過剰摂取するとどうなる?

カフェインの過剰摂取にはリスクがあります。以下のような副作用が発生することがありますので、注意が必要です。

①一度の多量摂取は、下痢、吐き気、イライラ、不眠などの健康被害を誘発することがあります。

②不安感や緊張感: カフェインの刺激作用により、不安感や緊張感が高まることがあります。

③心拍数の増加や不整脈: 心拍数の増加や不整脈を引き起こす可能性も。

④消化不良や胃の不快感: 胃酸の分泌を刺激し、消化不良や胃の不快感を招くことがあります。

⑤不眠症: 眠りが浅くなったり、寝付きが悪くなったりすることが考えられます。

カフェインを摂取する際の注意点

カフェインを安全に楽しむためには、以下の点に注意してください。

①妊娠中や授乳中: カフェインは胎盤を通過するため、妊娠中や授乳中の摂取は控えめにしましょう。

②個人差があるカフェイン感受性: つまり、ほんの少しコーヒーを飲んだだけでも夜全く眠れなくなってしまう人がいれば、1リットルのペットボトルでがぶ飲みしても熟睡できる人もいます。感受性が高い人は無理にカフェインを摂取しなくてもいいかと思います。

③カフェイン依存: カフェインには依存性があります。とはいえドラッグや酒、ニコチンなどと比較するとその依存性は著しく軽く、目くじらを立てるほどではありません。依存症状が現れても、カフェインを断つと短期間で消失します。

④カフェイン耐性: どんな良薬も服用し続けると効き目がなくなってくるのと同様で、カフェインも取り続けると耐性ができてしまいます。カフェインの効果をきっちり享受したい方は、定期的にカフェイン断ちをするといいでしょう。

カフェインとの賢い付き合い方

カフェインは、私たちの生活にさまざまな恩恵をもたらす魅力的な成分です。集中力のアップ、眠気覚まし、さらには疲労感の軽減や運動能力の向上など、適量を守ればその効果は非常に有益です。しかし、一方で、カフェインには摂取量を誤ることで不安感や不眠症、さらには依存症を引き起こすリスクも伴います。

宗教家や修行者たちはコーヒーやお茶に対して「推奨はしないが禁止もしない」という見解を示してきました。それもカフェインの性質によるものでしょう。

この章で紹介したように、カフェインを摂取するならば、その基本的なメカニズムや効果を理解し、適切なタイミングと量で摂取することが重要です。特に、個々の体質や生活習慣に合わせてカフェインとの付き合い方を見直すことで、カフェインのメリットを最大限に活かすことができるでしょう。

しかし、カフェインに頼ることなく、健全な修行生活を過ごせるならば、それが一番かもしれないということも付け加えておきます。

次回はカフェインと並ぶ、コーヒーとお茶の有効成分『ポリフェノール(抗酸化物質)』について解説し、最後にいかにコーヒーやお茶と付き合えばいいのかをさらに深堀りします。

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