ナーグ・マハーシャヤの生涯(5)季節外れのアマラキーを求めて:ラーマクリシュナへの献身

Ramakrishna world

ラーマクリシュナの病気を引き受ける

ナーグがラーマクリシュナに出会ってから4年の月日が流れました。ドッキネッショルでの歓びに満ちた日々は過去のものになりました。ラーマクリシュナの病は悪化の一途をたどり、寝たきりになっていたのです。

そんなある日、ナーグに向かってラーマクリシュナは言いました。「おお、よく来てくれた。医者たちは病気を治すことをあきらめたが、お前は病気を治す呪文を知っているかい? もしお前に治療できるのなら、診察しなさい」

ナーグは頭を垂れてしばらく考えた末、その強靭な意志力によって、師の病気を自分の肉体に引き受けようという決意を固めました。異常な興奮が彼を襲い、ナーグは叫びました。

「そうです! そうすれば良いのです。師よ、わたしは知っています。あなたの恩寵によって、わたしはすべてを知りました。今この瞬間にも、あなたの病気は治るのです!」

ナーグがいざ実行しようとすると、ラーマクリシュナは弟子を守るために、それを止めて言いました。「その通りだ。お前にはそれができる。お前は病気を治すことができる」

季節外れのアマラキーを求めて

ラーマクリシュナがこの世を去る日の5、6日前、ナーグは師が次のように話しているのを耳にしました。

「アマラキーは、今の季節でも手に入るだろうか? わたしの味覚は駄目になってしまった。でもアマラキーの果実を食べれば、味覚を取り戻すことができると思うのだよ」

その場に居合わせた信者の一人は、こう言いました。「師よ。今はアマラキーの季節ではありません。どこで手に入りましょうか」

しかしナーグは、師の神聖な口からアマラキーという言葉が出たのだから、必ずどこかで手に入る、と考えました。そして誰にも告げずにアマラキーの果実を探しに出かけました。

ナーグは季節外れのアマラキーを求めて、あちこちの果樹園を次から次へと当てもなくさまよいました。

三日目に、ナーグは手にアマラキーの果実を一つ持って、ラーマクリシュナの前に現われました。師の喜びに際限がなく、子供のように「ああ、何と美しいアマラキーだろう! お前はどうやってこの季節に見つけてきたんだい」と大喜びしました。

プラサードの葉っぱを食べる

その後、ラーマクリシュナは弟子に、ナーグのために食事を用意するように命じました。目の前に食事が配膳されましたが、ナーグは手をつけようとしませんでした。実はこの日は断食の日でナーグはそれを固く守っていたのです。

弟子から報告を受けたラーマクリシュナは、ナーグの食事を持って来させました。そして食物の一つ一つにほんの少しずつ舌を触れて、その食事をプラサード(神や師にささげられた供物のお下がり)にしました。「さあ、これを彼に与えなさい。きっと食べるだろう」

再びナーグの前に食事が並べられると、彼は、「プラサード! プラサード! 神聖なプラサード!」と叫び皿の前にひれ伏してから、食べ始めました。

 

すべての食事を平らげた後、ナーグは、何と皿代りの食用でない葉っぱまで食べてしまいました。ナーグは、プラサードとして与えられたものは、何一つ残すことができなかったのです。

この出来事以降、ラーマクリシュナの弟子や信者たちは、ナーグにプラサードを出すときは葉っぱの皿を使いませんでした。葉っぱで給仕してしまったときは、ナーグのことを注意深く監視して、彼が食事を終るやいなや、葉をひったくって片付けたのでした。

ラーマクリシュナ逝去直後のナーグ

1886年8月16日、ラーマクリシュナはこの世を去りました。師の死後、ナーグはカルカッタの粗末な宿屋で何日も断食しながら、ずっと毛布にくるまって横になっていました。

それを知ったヴィヴェーカーナンダは、兄弟弟子とともに、ナーグの宿を訪ねました。敬愛する彼らの姿を見ると、ナーグは起き上がりました。彼らが「今日は托鉢に来ました」と言うと、ナーグは市場から米、調理器具、燃料などを買ってきて、調理しました。

ヴィヴェーカーナンダたちはナーグの分を取り分けてから、食べ始めました。そしてナーグにも食事を勧めると、彼はその瞬間に米の入った鍋を壊して、自分の額を殴り始めました。そして悲痛の声をあげました。

「ああ! 未だに主の恩寵はわたしに与えられていないのです! 神を悟っていないこの肉体に食べ物を与えるべきでしょうか? そんな必要は全くありません!」

ヴィヴェーカーナンダたちはナーグのふるまいにびっくり仰天しました。しかし彼らもあきらめませんでした。度重なる懇願の末、最後にやっとナーグは食事を口にしました。

その後ナーグはデオボーグの実家に戻り、父に奉仕する生活を始めました。父のディンダヤルは高齢で衰弱しており、介護が必要だったのです。

ナーグは、日常の介護をするだけではなく、父の心が一瞬たりとも世俗に向かわないように、いつも父のそばで、聖典や神話などを読み聞かせていました。ナーグのたゆまぬ努力によって、世俗的だった父の心は徐々に変化していきました。

ターラカンタの師

ナーグの知人にターラカンタという名の弁護士がいました。彼は神への祈りや瞑想を喜びとしていたため、ついには弁護士を辞めて、修行に人生を捧げることにしました。彼はナーグのもとをたびたび訪れ、ときには幾日も二人で修行をして過ごしました。

そのうちターラカンタは、ある高名な修行者に弟子入りしました。そしてある日ターラカンタは、ナーグを訪ねて言いました。

「わたしは自分の前世を思い出しました。また、わたしはより高い領域、すなわち月の世界や太陽の世界やブラフマーの世界などに行くことができました。真理も非真理も、すべて偽りです。知識だけが真実なのです」

ナーグは、ターラカンタの激しい変わりようを見て、こう思いました。「ターラカンタのようなハイクラスの修行者でさえも、真の師や教師を得られないなら、誤り導かれるのだ」

ターラカンタは、ナーグにも自分の師に会うように頼みました。繰り返し求められ、ついにナーグは承諾しました。

ナーグは伝統に則って、ターラカンタの師にお菓子と果物を捧げました。しかし彼はそれらの供物に一切手を触れず、全部そばにいた牛に与えてしまいました。

その師は、ナーグのやせ細った姿、洗っていないために見苦しく伸びた毛髪、貧しい服装とガサツな身なりを見て、からかい始めました。しかしナーグは頭を垂れてじっと座っていました。

ナーグが一切の嘲笑に無関心だったので、彼はいっそう興奮し、今度はナーグの師ラーマクリシュナについて、ひどい悪口を言い出しました。

 

ナーグは師への中傷だけは我慢できず、怒り心頭に達しました。そしてナーグが顔をあげると、なんと目の前に、バイラヴァ神(恐怖の相を表わす破壊神シヴァの別名)が現われていました。ナーグはバイラヴァ神に、その男を投げ飛ばす許可を求めました。

しかしナーグは、すぐさまその激しい感情を抑え込むと、後悔しながら、床に頭を打ち付けはじめました。「ああ! わが主よ! なぜわたしはあなたの言いつけを無視して、修行者などに会いに来たのでしょう? なぜわたしはこのような弱さに襲われたのでしょう!」

ナーグは叫びながら走り去りました。もう二度と自分の師以外の修行者に会いに行かないと誓ったのでした。

この事件の後、ターラカンタの師は「ナーグが一年で血を吐いて死ぬように」という呪いをかけました。ナーグはそれを聞いて一笑に付しました。実際に一年がたっても何も起きませんでした。

 

「ターラカンタの師は中途半端な理解に基づくヴェーダーンタの教義を人々に説き聞かせ、たくさんの人々の智慧を損ねてしまった」と、ナーグは語りました。

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