【感動秘話】師トータープリーとラーマクリシュナの物語(1)

Ramakrishna world

ラーマクリシュナには12年間にわたる壮絶な修行期間がありました。最初の4年間は、師につくことなく、聖典によることもなく、ただ神への強烈なあこがれ、神への渇仰のみで母なる神を悟ったのでした。

その後、ラーマクリシュナは二人の師につくことになるのですが、その経緯も特殊でした。彼が師の門をたたくのではなく、師の方から彼の元に押しかけてきたのです。一人目の師は女性の行者バイラヴィー・ブラーフマニー。二人目の師は裸の行者トータープリーです。

今回は二人目の師トータープリーとラーマクリシュナ、二人の師弟が織りなす不思議な物語をご紹介します。

トータープリーの登場

トータープリーは聖河ナルマダーのほとりで、40年もの間、心の制御と瞑想に没頭しました。そしてついにニルヴィカルパ・サマーディ(無分別三昧むふんべつざんまい)の境地に到達し、解脱したのでした。

トーターが奉じていたのはヴェーダーンタ哲学でした。そこでは宇宙の根本原理であるブラフマン(ぼん)のみが真の実在であり、ブラフマンと自己の本性である真我アートマンは同一である(梵我一如ぼんがいちにょ)とされます。そして、この多種多彩に見える現象世界はブラフマンから生じた幻影マーヤーにすぎないと説かれています。

ブラフマンを悟ってからのトーターは、風のように自由にインドを歩き回り、様々な寺院や聖地を訪れました。彼はガンジス河が海に流れ入るところで沐浴し、聖地プリーを訪れ、その帰りにドッキネッショルのカーリー寺院に立ち寄りました。

トーターは裸の行者でした。衣服は一切身にまとわず、決して屋根の下で眠らず、冬でも嵐の日でも樹の下か星空の下で夜を過ごしました。食を乞うことはなく、他者が布施したもので肉体を養いました。場所にも執着が生じないように、同じ所に三日以上留まりませんでした。

ドッキネッショル寺院、正面

ヴェーダーンタの修行をする気はないか?

1864年の末頃、カーリー寺院の正面のガートを上がってきたトーターの眼は、一人の男に注がれました。それは階段の隅で放心状態で座るゴダドル(後のラーマクリシュナ)でした。このときバクティ・ヨーガを完成していたゴダドルの顔から、信仰の感動が放射されていました。

「ほう! 密教ばやりのベンガルにも、これほどの人物がいたのか…」トーターは喜びと驚きにつつまれながら、ゴダドルに近づきました。

「あなたは非常に良い素質を持っている。どうだ、ヴェーダーンタの修行をする気はないか?」

ゴダドルは、不意に自分に話しかけてきた蓬髪の裸の修行者を見上げました。彼は背が高く頑強な体格をしていました。

「わたしにはそういうことをしていいのか悪いのか、全くわからないのです。マーが何もかも知ってます。わたしはマーの言う通りにします」

「では、行ってお母さんに尋ねてきなさい」

ゴダドルはゆっくりと立ち上がって、カーリー聖堂へ行き、法悦状態に入りました。すると母なる神からこのような言葉を聞きました。「行って学ぶがよい。あの僧はお前に教えるためにここへ来たのだ」

ゴダドルは歓喜とともに戻って来て、マーの返事を伝えました。トーターは哀れみの思いで、心の中でつぶやきました。「マーというのは、カーリーマーの神像のことか…。無智と迷信だ」

無形の絶対的実在ブラフマンを最高と考えていたトーターは、「名と形のある神」つまり人格神を信仰するバクティ・ヨーガを低く見ていたのでした。

ヴェーカーナンダ哲学

ヴェーダーンタの修行をするには、正式に出家入門する必要がありました。吉祥の日の夜明けの2時間前に、パンチャヴァティ五種の聖なる樹の杜(ラーマクリシュナの修行場)の傍にある小屋の中で、イニシエーションがおこなわれました。ゴダドルは親のつけた名前を捨てて、『ラーマクリシュナ』という法名を授かりました。

様々な出家入門の儀式が終了し、トーターは弟子にヴェーダーンタの教えを授け始めました。「ブラフマンは、永遠に純粋で、永遠に目覚めている唯一の実在である。時間、空間、カルマの法則を超越している。

それは絶対の”真実在サット智慧チット歓喜アーナンダ”である。多種多様な現象世界は、幻影マーヤーである。すべての名と形はマーヤーにすぎない。しかしブラフマンは決してそのように分けられるものではない。

最高のサマーディにおいては、時間も空間も、名も形も知覚しない。それ故、名と形にしばられているものは真の実在ではない。それらを捨てよ。

名と形の檻を、雄々しきライオンとなって打ち破り、出て来い! あなたの本性である真我アートマンに深く潜りなさい。サマーディの中でそれと一つになれ!

そのとき名と形で構成される宇宙は、虚空の中に消滅する。微小なる我は無限大の我に溶け込む。そしてあなたは完全円満なるブラフマンとアートマンが同一であると悟るであろう」

トータープリー
トータープリー

カーリー女神を切る!

真理を説いた後、トーターは「名と形から心を切り離して、真我に没入せよ!」と命じました。

ラーマクリシュナは瞑想の坐につきました。名と形のあるものから心を斥けていくことは、非凡な彼にとって難しくありませんでした。しかし最後の最後に、カーリー女神の光り輝く姿が現われて、優しく微笑むのでした。ラーマクリシュナはマーにすっかり心を奪われて、名と形の放棄を忘れてしまうのでした。何度試しても、同じことでした。

「ダメです。わたしにはできません。どうしてもマーが…」

「何だと! できないだと? 何という反抗だ!」

トーターは小屋の中にあった一片のガラスの破片をラーマクリシュナの眉間に突き刺し、「心をこの一点に集中せよ!」と雷のような声で命令しました。

ラーマクリシュナは断固たる決意で再び瞑想に没入し、カーリー女神の姿が現われるや否や、彼は智慧の剣をもって真っ二つに切り裂きました。ラーマクリシュナはついに名と形の世界を越えて、ニルヴィカルパ・サマーディの境地へと到達したのでした。

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