「息をしっかり吐く」ことができないあなたへ。【腹横筋】を鍛えれば呼吸力が向上する!

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はじめに:深い呼吸の鍵を握る腹横筋

「深呼吸をしましょう」というと、ほとんどの方が息を吸うことから始めます。ですが、満員電車にさらに多くの人々が乗車することができないように、肺の中にたっぷり息が入っている状態では深く息を吸うことはできません。

ヨーガの呼吸法ではまず【息をしっかり吐く】ことを重要視します。空の車両にはたくさんの人が乗車できますよね。同じように息をしっかり吐くことで肺が空っぽになったら、苦労せずともたくさんの息が入るのです。

このブログでご紹介した呼吸法の実践で、私は【息をしっかり吐く】という指示を多用しています。それに対してある生徒さんから「先生、その【息をしっかり吐く】ことができないんです」という声をいただきました。

そこで今回は【息をしっかり吐く】ために働く腹横筋ふくおうきん(Transverse abdominal muscle)をテーマに、その働きや鍛え方を丁寧に解説していきます。

なぜ腹横筋が呼吸法において重要なのか?

腹横筋ってどんな筋肉?

腹式呼吸の主役筋は横隔膜おうかくまく、胸式呼吸の主役筋は肋間筋ろっかんきんであることはすでに学習しました。そして、さらに呼吸補助筋が20ほどあります。そのなかで筆頭格と言えるのが、今回のテーマである腹横筋です。

腹横筋は肋骨と骨盤の間にあり、腹部を前方から後方へ包み込むように伸びています。この筋肉の線維は水平に走っており、天然のコルセットのような役割を果たしています。

腹筋は、4層構造となっています。

【第1層目】は腹直筋ふくちょくきんで腹の前に縦についているアウターマッスルで、シックスパックになる筋肉です。これは主に、身体を前に倒す動作において働きます。

そして【第2層目】が外腹斜筋がいふくしゃきんで、【第3層目】が内腹斜筋ないふくしゃきん。この2つは斜めについていて、主に回旋運動において働いています。

そして、さらに最も深い【第4層目】にあるのが腹横筋となります。この筋肉は上蓋の横隔膜、下底の骨盤底筋群こつばんていきんぐんとともに腹部のインナーマッスルを形成しています。

腹横筋は正しい姿勢を保つための重要な筋肉

ところであなたはいま、このブログをどのような姿勢で読んでいますか?以下に当てはまる点がないかチェックしてみましょう。

☑首が前に出ている

☑巻き肩になっている

☑猫背になっている

☑腹筋が使えていない

☑骨盤が後傾している

これらのいずれかにチェックがつけば、姿勢が乱れている可能性があります。姿勢の乱れは呼吸に悪い影響を及ぼします。骨盤が後ろに倒れた状態ではおなかに力が入らず、十分に息を吐くことができません。猫背、巻き肩状態では、胸郭が圧迫されているので、十分に息を入れることができません。

骨盤が立っていて、脊椎をすらりと立ち上がらせることが正しい姿勢のポイントです。そして腹部にあって天然のコルセットとして脊椎を支えているのが、腹横筋なのです。腹横筋の筋肉の構造上、走行が横方向になっていることから腹圧を高めることができます。

腹横筋は【息をしっかり吐く】ときに働く筋肉

さらに、腹横筋は腹式呼吸において【息をしっかり吐く】ときに働く呼吸筋です。腹横筋が収縮するとおなかは凹み、腹部の内臓は上へと押し上げられます。

内臓は横隔膜を押し上げ、さらに肺を下から押し上げます。これによって【息をしっかり吐く】ことが可能になるのです。

ところが骨盤が後ろに倒れ、猫背の状態ではおなかに力は入りません。その結果、腹横筋は働かず、浅く小さな呼吸になってしまいます。

まだまだある! 腹横筋の重要な5つの働き

腹横筋が正しい姿勢と深い呼吸を可能とすることを説明しました。しかし腹横筋の役割はそれだけにとどまりません。以下に並べてみます。

1.体幹の安定と腰痛予防

人の身体は、動く時に、まず無意識に体幹を安定させ、それから手足などを動かします。最初に体幹が安定するのでスムーズな動作が生まれます。体幹を安定させるのが腹横筋です。

腹横筋の筋力が弱いと体幹は不安定となり、その状態で動けば腰痛が生じやすくなります。腹横筋は腰痛予防にも一役買っているのです。

2.便秘の改善

腹横筋は腹圧を高めて排便を補助します。くしゃみや咳をするときにも働きます。

3.腰のくびれをつくる

腹横筋は、コルセットのようにお腹に巻き付いている筋肉です。この筋肉が収縮すると、ウエストをキュッとしぼる方向に働くため、くびれを生み出すことができます。

4.内臓を健康に保つ

腹横筋は腹圧を高めることで内臓の下垂を防ぎ、内臓を正しい位置に保ちます。腹式呼吸によって内臓をマッサージできます。

5.ウッディーヤーナ・バンダ

【四の技法】ウッディーヤーナ・バンダとは、腹部を引き締め、内臓と横隔膜を引き上げ、プラーナを上昇させるヨーガの技法です。呼吸法では主にクンバカ(止める息)の際に用いられます。この重要技法でも腹横筋が活躍します。

腹横筋を鍛える呼吸法トレーニング3選

腹横筋の重要性がご理解いただけましたか? もちろん腹横筋は筋肉ですので、加齢や運動不足、悪い姿勢などによって衰えてしまします。しかしご安心ください。ヨーガ呼吸法自体が正しい姿勢と深い呼吸のために、腹横筋をしっかりと活用しているからです。

ですからヨーガ呼吸法を日々、実践するだけで十分に腹横筋は鍛えられます。そのなかで特にオススメの呼吸法トレーニングを3つに厳選してご紹介します。

1.初心者のためのやさしい呼吸法トレーニング

初心者の方はここから初めてみましょう。【息をしっかり吐く】とはどういうことか、何となくでも体感できればオッケーです。楽にできる方は次に進みます。

①口を大きく開けてライオンが咆哮するように「ガァ~~~!」と息を吐きます。

②「は! は! は!・・・」と声を出しながら、息が続くまで息を吐きます。

③「は! は! はあ~」と声を出しながら、息が続くまで繰り返します。

④わざと大あくびをしてみます。

それぞれの練習法を数回繰り返します。

ポイント:息を吐いたと思っても、思った以上に肺の中に息が残っているものです。それをさらに吐き切るようにしましょう。腹横筋を意識しながらレッスンすることも大切です。 

2.カパーラバーティ浄化呼吸法

カパーラバーティ浄化呼吸法は、「シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!」と鼻息のする、急速で力強い吐息の連続が特徴です。腹横筋の瞬間的な収縮により内臓が刺激され、体内に溜まった老廃物や毒素がデトックスされます。腹横筋を鍛えるのに最適な呼吸法トレーニングです。無理のない範囲で取り組みましょう。

正しい坐法を取ってから、

① 十分に息を満たし、次いで息をゆっくりと吐いていきます。

② 胸がゆるんだところで瞬発的に腹横筋を引き締めて「シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!」と力強くリズミカルに30~60回の出入息を行います。

③ 終わったら十分に呼吸を整えます。

これらを2~3セット繰り返します。出入息を30回程度から始め、慣れるにしたがって60回まで回数を増やしていきます。

ポイント:腹筋を引き締めるとき、肩や胸、頭が一緒に動かないようにします。緊張させたいのは出息の際の腹横筋だけで、他はリラックスして行います。

3.ダイナミック・ウッディーヤーナ・バンダ

【四の技法】ウッディーヤーナ・バンダは通常、内臓や横隔膜を引き上げた状態でキープしますが、ここでは引き上げて下ろし、引き上げて下ろしを数回繰り返し、腹横筋を鍛えていきます。

①ウッディーヤナ・バンダの要領で息を吐き切り、腹横筋を引き締め、内臓や横隔膜を引き上げます。

②息は止めたままで、内臓と横隔膜を引き上げたら、腹横筋をゆるめて下ろし、再び引き上げてからゆるめて下します。これを数回繰り返します。内臓が縦回転しています。

③息が限界まで来たら、腹横筋の動きを終えて、鼻からゆっくり息を入れます。呼吸を整えながらリラックスします。

これらを3回程度繰り返します。

ポイント:カパーラバーティは数をこなすことを意識します。量を重視します。一方でダイナミック・ウッディーヤーナ・バンダでは一回一回しっかりと腹横筋を引き締めてからゆるめます。質を重視します。とはいえウッディーヤーナ・バンダは一朝一夕ではできるものではなく、練習をつみかさねることが必要です。

いかがだったでしょうか? 個人差はありますが三カ月から半年で十分に効果を感じられるようになるでしょう。とにかく継続的な練習が重要です。

まとめ

深くゆったりとした呼吸は、ヨーガ呼吸法の根幹をなす要素です。そして、そのためには【息をしっかり吐く】ことが欠かせません。そのカギを握るのが腹横筋です。

腹横筋は腹筋の最奥に位置する、インナーマッスルであり、正しい姿勢の保持や深い呼吸に関わるなど、様々な重要な働きを担っています。

腹横筋は呼吸法トレーニングで鍛えることができます。継続したトレーニングにより、正しい姿勢と呼吸力の向上が得られ、ヨーガをより効果的に楽しむことができるでしょう。

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