ラーマクリシュナを回想する
ラカールはドッキネッショルのカーリー寺院で、ラーマクリシュナへの奉仕と修行に専念するようになりました。
彼は師ラーマクリシュナのことを次のように回想しています。
「師は毎晩大半の時を、サマーディに入ったり、主の御名を唱えたり、賛歌を歌ったりしてお過ごしになった。夜、一時間以上お眠りになることはまれだった。しばしば、わたしは彼が一回に一時間以上、サマーディに完全に没入しているのを見たものだ。
ときには、われわれに向かって話をしようとなさるのだが、お言葉が出てこないのだった。後でおっしゃるには、『ね、サマーディに入っている間も、わたしはお前たちに話をしたいと思うのだよ。ところがそうしようとすると必ず、まるでわたしの話す力の扉に鍵がかけられたかのようになってしまうのだ』
彼は普通の境地に降りてくる途中でしばしば、まだ見えている神に向かって話しかけるかのように、何かをつぶやいていたものだ。
「師は常に、さまざまな種類のサマーディを経験していた。ある状態の時には彼の身体は丸太のように固く、不動となった。このような状態から平常の意識を取り戻すのは、彼にとってはたやすいことだった。
しかし他の場合、サマーディがさらに深い時には、通常の意識にお戻りになるのにもっとずっと時間がかかった。そのようなときは彼はまず、深い水中から上がってきた溺れかけた人のように、深い息をお吸いになるのだった。
そしてしばらくはよろめき、酔っぱらいのようにふるまいになった。お話になることも不明瞭で筋道が通らなかった」
ラーマクリシュナがサマーディに没入しているときには、ラカールが注意深く師を守りました。ラーマクリシュナが法悦状態で歩き回るときには、ラカールが脇から師の体を支え、大きな声で障害物への注意を促しながら、師の歩みを助けるのでした。
「お前、何か悪いことをしたのか?」ラーマクリシュナの教え
ラーマクリシュナは愛する息子に厳しく訓練しました。ある日、師はラカールに言いました。「わたしはお前の顔を見ることができない。お前の顔に無知のヴェールがかかっているのだ。話してくれ。お前は何か悪いことをしたのか?」
ラカールは何も悪いことをした覚えがありません。師は「よく考えてごらん。何か嘘をついたことはないか?」
長いこと考えた末、ラカールは友人にふざけて罪のない嘘を言ったことを思い出しました。師は「二度とそれをするな。常に真実のみを語ることは、最も重要な心の訓練である」と彼を戒めました。
あるときラカールは、師をオイルでマッサージしながら、超越的ヴィジョンを授けてほしいと懇願しました。ラーマクリシュナは黙って聞き流していましたが、ラカールがしつこく繰り返すと、突然、荒々しい言葉を発しました。
ラカールは腹を立て、オイルの入った瓶を床に叩きつけ、走り去りました。しかし寺院の門まで来ると、突然、足が麻痺したように一歩も動けず、その場に座り込んでしまいました。
間もなくラーマクリシュナはラカールを連れ戻しました。師は微笑みながら言いました。「ね! わたしが周りにひいておいた線の外には、一歩も出られなかっただろう!」
ラカールが恥じていると、ラーマクリシュナは恍惚状態に入り、母なる神に向かって話し始めました。
「おお母よ、あなたが彼に、あなたのお力の16分の1をお与えになったことをわたしは知っています。彼の内部のその力は、全人類を益するでしょう」
そしてその恍惚状態のまま、ラカールに言いました。
「お前はわたしに腹を立てた。なぜわたしがお前を怒らせたのか、わかるか? それには目的があったのだよ。薬は、腫れものの口が開いたときに初めて効くだろう」
師は続けました。「神は自分の心を支配し得た人に、お姿をお見せになるのだ」
そしてその数日後、ラカールは師の足をマッサージしているとき、突然外界の意識を失い、彼が切望していたあの超越世界に入ったのでした。
ラカールの決断:人生の岐路に立たされて
さて、こうしてラカールがラーマクリシュナのもとで奉仕と修行に没頭し、二年の月日が流れました。彼はその間、妻のことを全く省みていませんでした。
ラカールにはすでに世俗への未練はありませんでしたが、ラーマクリシュナから時々妻のもとを訪れるように指示され、それに従いました。するとラカールはだんだん妻の将来のことを心配するようになり、
- 妻を捨てて修行一筋に生きるべきか
- 妻のために世俗で義務を果たすべきか
どちらの道を選ぶべきか悩むようになりました。彼は師に相談しました。しかしラーマクリシュナはハッキリとした回答を与えませんでした。
重い心を抱えたまま、ラカールは妻のもとに帰り、「道を示したまえ」とラーマクリシュナに祈り続けました。すると数日後、突然、ラカールの視界を覆っていた一枚のヴェールが剥がれ落ちました。自分と妻は、結婚という絆で縛られるべきではないと確信しました。
ラカールは神の道で果たすべき大きな使命をもっていたのです。また彼は、妻の将来が守られていることを確信しました。そして不思議なことに、妻もまた、自分の人生が平安に満たされていることを感じました。
そこでラカールは妻に別れを告げ、ラーマクリシュナのもとへ帰りました。師は、何が起こったのかをすべてご存知でした。ただ黙って微笑しつつ、愛する霊の息子の帰宅を迎えたのでした。
師弟の絆:ラカールの神秘体験
あるとき、ラカールはいつもの時間に瞑想修行をしませんでした。それに気づいたラーマクリシュナが理由を尋ねると、「常に神聖さを受けるというわけにはまいりません。ハートが干からびたように思われ、虚しさを感じるのです」と答えました。
これを聞いて、ラーマクリシュナは言いました。「そんな理由で、決して瞑想を怠ってはならない。修行を実践する決意をせよ。そうすれば情熱は自然にわいてくる。
百姓の家に生まれて百姓を仕事としている者は、収穫がなかったというだけの理由で百姓をやめることなど、しもしないし、できもしないだろう。
そのようにお前も、たとえ目に見える効果がなくても、瞑想をやめてはいけない。修行は几帳面にやり続けなければならない」
この会話の後、ラーマクリシュナは、いつものように礼拝のためにカーリー女神の聖堂に行きました。ラカールもそれについていき、聖堂に面した広間に座って瞑想を始めました。
すると突然ラカールは、カーリー聖堂が光り輝くのを見ました。光はさらに強まり、ついには太陽そのもののようになりました。しかし眼をくらませるような光ではなく、それはやさしく柔らかに輝いていました。
さらにその光は聖堂から外に伸び、ラカール自身をも包み込むように思われました。ラカールは怖くなり、立ち上がって広間の外に出て行きました。
そしてラカールが自分の部屋に帰ると、そこにラーマクリシュナがやってきて、言いました。「なぜおまえは逃げたのか。お前は、ハートが干からびて神聖なヴィジョンが得られないと不服を言いながら、経験するとなると恐れる。それは良くないぞ」
その数日後、ラカールは聖堂の前の広間で瞑想し、歓喜状態に浸っていました。するとそこにラーマクリシュナがやってきて、恍惚状態でラカールに近づくと、ラカールに特別なマントラを授け、「見よ! お前のイシュタ(その修行者と特別な関係がある主神)である!」と言いました。
するとラカールは、彼のイシュタが、目の前に、実際に生きた存在として立っているのを見ました。それは光り輝き、口元に微笑をたたえていました。その後、恍惚状態から覚め、通常の意識を取り戻すと、ラカールはラーマクリシュナの足元にひれ伏しました。
この時期に、ラーマクリシュナはラカールにさまざまな修行法を教え、ラカールはそれらを熱心に修行しました。その結果、ラカールは頻繁に恍惚状態に入るようになり、またさまざまなヴィジョンや神秘体験をしました。
しかし、「それらを誰にも話してはいけない」というラーマクリシュナの指示を守り、師以外には自分の体験を話すことはありませんでした。
ラカールを「我らのラジャ(王)と呼ぼう!」
ラーマクリシュナは咽頭ガンにかかり、療養のためにコシポルのガーデンハウスに移されました。ラカールもついていきました。ナレンドラ(のちのヴィヴェーカーナンダ)を中心に若い弟子たちが集まり、泊まり込みで師の看病にあたりました。
ラーマクリシュナは重病人でありながらも、個別指導で弟子たちを訓練しました。ガーデンハウスは至福の場所になり、弟子たちのハートは、神とともにある喜びにあふれていました。
この時期、ラーマクリシュナはナレンドラを育てるために、毎日何時間もそばにおいてさまざまな教えを与えました。あるときの会話の中で、師は言いました。「ラカールは王者に値する鋭い智性をもっている。彼が望みさえすれば、一国の王となることもできるだろう」
これを聞いたナレンドラは、あるとき、若い弟子たちで一緒に座っているときに、ラカールの偉大さを語り、「今日からわれわれは、ラカールを我らのラジャ(王)と呼ぼう」と提案しました。
みんなは、ラーマクリシュナがラカールを霊性の息子として特別に愛していることを知っていたので、喜んで同意しました。これを知ったラーマクリシュナも、喜んでそれを承認しました。こうしてラカールはラジャ(王)と呼ばれるようになり、そしてのちにはラーマクリシュナ・ミッションの長としてマハラジ(大王)と呼ばれるようになります。
このようにして、病気というリーラー(遊戯)を利用して若い弟子たちを身近に集め、彼らに救済者としての種子を植え付けたラーマクリシュナは、自分の使命が達成されたことを知り、1886年8月15日、マハ-サマーディに入り、肉体を捨てたのでした。
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