はじめに:「口でする呼吸法はあるの?」
私は『【零の技法】口呼吸はNG!? 鼻呼吸の驚くべきメリットとは?』と題した記事で、鼻呼吸と口呼吸の違いを比較し、鼻呼吸の利点を強調しました。ヨーガの世界でも、鼻呼吸は基本中の基本です。
「口でする呼吸法って、あるのですか?」という質問を受けました。
シータリー呼吸法とシートカリー呼吸法
もちろん、口で行う呼吸法も存在します。代表的な例として挙げられるのが、シータリー呼吸法です。これは「舌を出してUの字に丸め、それをストローのように使って息を吸う」という方法です。
この呼吸法は、体温を下げる効果があります。犬が舌の唾液を使って、気化熱で体温を調整しているのと同じ原理なのです。
しかし、舌を丸めることができない人もいるため、同様の効果を狙ったシートカリーという呼吸法も存在します。これは「『い』を発声するように唇を左右に広げ、上下の歯は軽く合わせ、歯の隙間からすするように息を吸う」という方法です。
ハタ・ヨーガやクンダリニー・ヨーガでは、まず第一に身体の内部から熱エネルギーを発生させることを目指します。ゆえに身体を冷やすこれらの呼吸法は方向性が真逆になります。ただし、ヨーガが生まれたインドの炎天下では、冷却効果のある呼吸法も重宝されるのでしょうね。
要するに、シータリーやシートカリーはヨーガのマニアックな部類に属する呼吸法です。興味がある人にとっては、挑戦してみる価値があるでしょう。
口すぼめ呼吸
ところで、この記事の本論はシータリーやシートカリーではありません。私がより多くの人に伝えたいのは、【口すぼめ呼吸】なのです。
これはヨーガの呼吸法ではなく、肺気腫や慢性気管支炎の患者が呼吸リハビリの一環として使用している呼吸です。
それゆえ第一に、【口すぼめ呼吸】は呼吸力の弱い人やヨーガ呼吸法の初心者にオススメできます。さらに第二として、呼吸法に慣れてきた人が日常の様々なシーンで活用できる優れものでもあります。
それでは、これからこの【口すぼめ呼吸】について詳しく解説していきましょう。
口すぼめ呼吸のやり方と重要な4つのポイント
口すぼめ呼吸法のやり方は極めてシンプルです。以下がその基本ステップです。
① 鼻から息を吸い込みます。
② 口を細く絞り、ゆっくり細く息を吐き出していきます。
これらを1回から数回繰り返します。
また、この呼吸の効果を最大限に引き出すために、次の4つのポイントを心に留めておいてください。
ポイント1: 口元を「う」を発声するときのように丸めて息を吐きます。イメージとしては「タコ」や「ひょっとこ」のような口元です。
ポイント2: 時間をかけて息を吐くようにします。ロウソクの炎をゆらすような感覚で、力み過ぎないようにしましょう。
ポイント3: 腹式呼吸や完全呼吸法でこの呼吸を実践するとより効果が高まります。
ポイント4: 口すぼめ呼吸といえども、吸気は鼻から行います。鼻には異物をフィルタリングする役割や、空気を加湿・加温する効果があるからです。口からは吐くときだけです。
口すぼめ呼吸のメカニズムと効果
口すぼめ呼吸法の最大のねらいは、「気道(空気の通り道)を広げる」ことにあります。口を細く絞ることで、空気の出口を制限し、一気に排気できない空気が気道を押し広げる圧力を生み出します。
その結果、気管支が拡張されて、肺に溜まっていた空気が効率よく排出されます。これにより、呼吸法において重要な「しっかりと息を吐くこと」が容易になり、吸気も確実に行えるようになるのです。
不思議な感じがします。息の出口である口を細く絞ることで空気の排出が制限されます。それなのにしっかり息が吐けるようになるのですから。
実際に試して確認してみましょう。鼻から息を吸った後、次の2つの方法で息を吐いてみてください。
1.ため息をつくように口から「はぁー」と息を吐きます。
2.口すぼめ呼吸を使って「ふぅーーーー」と息を吐きます。
どちらの方法で、しっかりと息を吐くことができたでしょうか?その違いを観察してみましょう。
こんなときに役立てたい!日常生活の様々なシーンでの口すぼめ呼吸
1.アーサナの呼気に:ヨーガ・アーサナのレッスン中に「長く息を吐いて」「深く息をして」など、インストラクターから指示されることがあります。そんなときに使えるのが口すぼめ呼吸です。驚くほど呼気が容易になりますのでお試しください。
2.呼吸を整えたいときに:口すぼめ呼吸は日常生活でも活用できる強力なツールです。スポーツやエクササイズ、作業中など、呼吸を整えたいときに活用できます。
3.本番直前に:また、プレゼンや本番の前、何かの発表や試験の前などに、適度な緊張とリラックスのバランスを整えたいときにも役立ちます。さらにリフレッシュしたいときにも役立つでしょう。
口すぼめ呼吸は座った姿勢だけでなく、立った姿勢や歩く動作の時、寝た姿勢でも行えます。集中した数呼吸、もしくは一呼吸でも何らかの変化を感じるかと思います。
悪しき思考や感情に立ち向かう「心の訓練」としての口すぼめ呼吸
私は長らく高齢者介護に携わってきました。高齢者やその家族、職員たちが交わる場所では、思考や価値観の違い、誤解や善意、悪意によって衝突や緊張が頻繁に発生します。
このような現象は介護現場に限らず、人々が集まる場所では日常的に起こり得るものでしょう。私もそうした困難な状況に何度も遭遇し、立ち向かいました。例えば
心が乱れたり
怒りに駆られたり
イライラが収まらなかったり
他者を非難しようとしたり
自己嫌悪に陥りそうになったり
極端なストレスにさらされたり
といったことが誰しもあるかと思います。そんなとき、口すぼめ呼吸は非常に有用です。危機的瞬間に、この呼吸をありったけの努力で実践します。
成功すれば、わずか数秒で心が変わり、平静を取り戻すことができます。少なくとも、悪しき思いから距離を置けるかもしれません。ダメな場合はもう一度呼吸しましょう。さらにもう一度と続けます。
心が乱れているときに、私たちは複雑なことはできません。頼れる人や道具がちょうどその場にないことの方が多いでしょう。しかし、呼吸だけはシンプルで常に私たちと共にあります。
訓練次第で、数秒または数十秒の呼吸であなたは平静さを取り戻し、状況に適切に対処できようになります。私自身、この呼吸によって何度も何度も救われました。
煩悩に囚われてしまったときも同様です。そんなときでも数呼吸するだけで驚くほど欲望が収まることがあります。
この方法は、心が同時に2つのことを考えられない特性を利用しています。つまり呼吸に集中することで、他の悪しき思いや感情から心を切り離すことができるのです。
まとめ
【口すぼめ呼吸】は、鼻呼吸がヨーガ呼吸法の基本原則であるなかで、特異な方法です。その最大の効果は、口を細く絞って吐くことによって気道を広げ、効率的な呼吸ができることです。正確な実践方法を理解し、適切なシーンで使用することで、呼吸法の世界をさらに一歩進化させることができます。
この魔法の呼吸は、日常生活から高度なストレス状況まで、あらゆる場面で役立ちます。心身のバランスを取り戻し冷静な判断力を保つのに役立つ【口すぼめ呼吸】を、あなたの人生にぜひ取り入れてください。
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