ブラフマーナンダ、放浪修行の旅に出る
ラーマクリシュナ亡き後、師の意思を引き継ぐべく、若い弟子たちはバラナゴルに僧院を作り、続いて出家の儀式を行い、ナレンドラ(のちのヴィヴェーカーナンダ)を中心としてラーマクリシュナ僧団が結成されました。ラカールはブラフマーナンダという出家名になりました。
ラーマクリシュナが残したこの若き弟子たちは、一心不乱に修行に励みました。彼らは貧しく、食物が全くない日々もありましたが、そんなことには全く無頓着でした。彼らの唯一の思いは神のことだけにありました。
放棄の念に駆り立てられたブラフマーナンダは、すべてをただ神にゆだねる無一物の苦行者として生きようと、兄弟弟子のスボダーナンダとともに放浪修業の旅に出発しました。
二人はベナレスに一ヶ月間滞在した後、ナルマダ河の堤に立つオンカルナート寺院に行きました。ブラフマーナンダはそこで、六日間続けてニルヴィカルパ・サマーディに入りました。
通常の意識に戻ってきたとき、彼の顔は悟りの喜びに輝いていました。神の非二元性をありのままに経験し、梵我一如を悟ったのでした。
二人は旅を続け、ラーマとシーターが暮らしたというゴダヴァリ河畔にやってきました。そこでブラフマーナンダは、ラーマとシーターの姿をリアルに見て、三日三晩、サマーディに没入しました。
このようにブラフマーナンダが頻繁にサマーディに没入しているとき、スボダーナンダは、細心の注意を払って、彼を見守っていました。このようなサマーディに長期間入った場合、そのまま肉体に帰ってこないリスクがあったのです。
この後、二人は聖地ドワーラカーへと向かいました。そこで一人の裕福な商人に出会いました。彼はブラフマーナンダとスボダーナンダの神聖な言動に感服し、さまざまな援助を申し出ました。
しかしブラフマーナンダはそれらを全て断りました。「わたしは、誰から何をしてもらう必要もないのです。主が、わたしの唯一のよりどころです! 彼が、わたしどもの世話をしてくださいます」
そこで商人は一冊のバガヴァッド・ギーターを贈り、二人の修行者はそれだけを喜んで受け取りました。
なぜこんな厳しい修行をするのですか?
ドワーラカーを出たブラフマーナンダとスボダーナンダは、さらにいくつかの聖地を巡り、ヴリンダーヴァンに到着しました。
ここにおいてブラフマーナンダは、物質世界の意識をほとんど失い、連続した恍惚状態の中に生きました。スボダーナンダとさえ、ごく稀にしか口をききませんでした。ブラフマーナンダの心は全く別の世界に生きていたのです。
スボダーナンダは托鉢で食物を集めて、それを静かにブラフマーナンダのそばに置きました。ブラフマーナンダは決まった時間に瞑想から戻って食物を摂りました。スボダーナンダの帰りが遅れてそこに食物が見当たらない場合は頓着せず、そのまま瞑想に入り翌日まで何も食べずにいました。
ブラフマーナンダがこのように寝食を無視して瞑想するのを見て、スボダーナンダが彼に尋ねました。「なぜこんな厳しい修行をするのですか? あなたは神の化身(ラーマクリシュナ)の息子なのです。
あのお方がすでにあなたのために、あらゆることをなさったではありませんか。あのお方の恩寵でサマーディも経験された。それなのになぜ、まだ乞食のように坐って主の恩寵を乞わなければならないのですか?」
ブラフマーナンダは答えました。「あなたの言う通りだ。師はわれわれのためにあらゆることをなさった。しかしなお、わたしは内に欠けたものを感じるのだ。師に与えられたサマーディを自分にとって日常のものにするには、修行を繰り返さなければいけないことを示している」
光り輝く聖者のヴィジョン
ブラフマーナンダは今度は、兄弟弟子のトゥリヤーナンダに旅の同行を求め、徒歩で北インドの様々な聖地をまわり、二年近くの巡礼の後、ボンベイに着きました。
すると偶然そこにヴィヴェーカーナンダがいたのです。兄弟弟子たちは感動の再会を果たしました。ヴィヴェーカーナンダはアメリカ行きの準備をしていたところでした。
ヴィヴェーカーナンダと別れた二人は再び旅を続け、いくつかの聖地で瞑想修行に没頭しました。
二人がクスム湖畔に滞在していた時、真夜中に起きて朝まで瞑想するのがブラフマーナンダのルーティンでした。ところがある夜、彼は疲れて寝過ごしました。すると誰かが彼の体を押して、目を覚まさせました。
ブラフマーナンダは最初トゥリヤーナンダかと思いましたが、やがて光り輝く聖者のヴィジョンがあらわれ、数珠をくって瞑想している姿を見ました。そしてこの聖者はほとんど毎晩あらわれて、ブラフマーナンダと一緒に瞑想しました。
後年、この出来事に関連してブラフマーナンダはこう言いました。「多くの聖者たちが、肉体を去った後に精妙な霊体に住み、熱心な求道者たちをさまざまな方法で助けるのだ」
目的の達成
1893年の末、トゥリヤーナンダは、兄弟弟子から度重なる手紙を受け取っていました。それは、アメリカにおけるヴィヴェーカーナンダの成功を伝えるとともに、トゥリヤーナンダに僧院に帰ってきてほしいという懇願が書かれていました。
ブラフマーナンダは、「私のことは心配するな。僧院に帰りたまえ。君はあそこで主のお仕事をしなければならない人である」と言って、トゥリヤーナンダを送りだしました。
その後さらに一年間、ブラフマーナンダはヴリンダーヴァンにとどまりました。この時期に彼は時々、食物や日用品を誰にも乞い求めない、という誓いを立てました。
それでもたいていは神の恩寵により、見知らぬ信仰深き人がブラフマーナンダに食物を持ってきました。しかし時々は、何日間も何もない日もありました。
あるときブラフマーナンダが瞑想していると、見知らぬ信仰者が温かい毛布を一枚置いていきました。するとその直後に、別の人がやってきて、その毛布を持ち去りました。ブラフマーナンダはただじっと座っていましたが、母なる神の奇妙なお遊びを見て、ひそかに微笑みました。
このような数年間にわたる激しい修行を通じて、ブラフマーナンダはついに目的を成就しました。かつてラーマクリシュナから瞬間的に経験させられたサマーディを、完全に自分のものとしたのです。
通常の意識状態でさえも、ブラフマーナンダの心は常に神で満ちていました。ブラフマーナンダは永遠に神の意識に定住し、そして同時に、苦しむ人々のために奉仕するときが来たと感じました。
そして、兄弟弟子や信者たちが待つコルカタへ向けて出発しました。胸中に神の喜びをたたえながら。
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