マヘンドラナート・グプタ(M)の生涯(3)ラーマクリシュナのサマーディと愛の歓喜

Ramakrishna world

三度目の訪問:ヴィヴェーカーナンダとの出会い

Ⅿは自殺を思いとどまり、朝から晩まで聖ラーマクリシュナのことばかり考えていました。深遠な真理をあのように、いともやさしい言葉で説明できる人に、Mは初めて出会ったのです。

Mが師を3度目に訪問したのは、一週間後の5月5日の午後4時ごろでした。日曜日なので部屋にはいっぱいの信者がいました。ラーマクリシュナは一人の青年を相手にして、さも嬉しそうに話をしていました。青年の名はナレンドラ(後のヴィヴェーカーナンダ)、彼は精気に満ちあふれ、眼はキラキラ輝き、堂々とした体格、魅力的な美しい顔つきをしていました。

師「ナレンドラ、お前、どう思う? 世間の連中はいろいろ言うよ。けれどもホラ、象が歩いていくと、後ろからいろいろな動物が吠えてくるだろう。でも象はふりむきもしない。お前のことを誰かが悪口言ったら、どんな気持ちになる?」

ナレンドラ「僕はこう思います。犬がキャンキャン吠えている、と」

師「アッハッハッハ! それは、ちょっとひどすぎるよ(一同大笑)。神さまはすべてのものに宿っている、とは言え、やっぱり善人とつきあって、悪人からは離れていることだ。

虎のなかに神様はいらっしゃる。とはいえ、虎を抱いて暮らすわけにはいかない(一同爆笑)。虎も神の現われなのに何故逃げるか? その答えはこうさ。『逃げろ!』と言ってくれる人たちも神の現われだから。どうしてその人たちの言うことを聞かないんだ?」

さらにラーマクリシュナはこうアドバイスしました。「悪い連中がそばに来たら、ひどい目にあわされないうちに、蛇のようにシューシューと、派手な音を立てておどかしてやれ。ただし、彼らの体を傷つけたり、毒を入れてはいけないよ

ラーマクリシュナのサマーディと愛の歓喜

今日の説法が終わりました。信者たちは境内を散歩に出かけ、Mもぶらぶら歩きました。しばらくしてMがラーマクリシュナの部屋に戻ってみると、驚嘆すべきことが起こっていました。

ナレンドラが歌を歌っていました。そして、ラーマクリシュナはというと、不動の姿で立ったままです。まばたきはせず、息すらしていないようでした。そばにいた信者が「これがサマーディなんだ」と教えてくれました。

ナレンドラの甘美な歌は続いています。

きよらかな聖なるハリ(ヴィシュヌ神)を

わがこころ思いこがれる

その光くらぶるもなく

その姿いと麗しく

信者の胸をよろこばせる…

ラーマクリシュナは身を震わせていました。髪の毛は逆立ち、眼からは歓喜の涙があふれていました。比類のない美しい何かを見ているような様子でした。

サマーディと愛の歓喜、Mはこれまでに見たことのない光景を、胸の奥に刻み込みました。

クジャクとアヘンのたとえ

翌日、5月6日も休日でした。午後3時ごろ、Mがラーマクリシュナの部屋に入るやいなや、「そら、また来たよ!」ラーマクリシュナは大声で笑いました。彼はナレンドラら若者たちに笑った理由を説明しました。

「一羽のクジャクに、4時にアヘンの一粒を与えた。そうしたら次の日のちょうど4時に、クジャクがまたやってきた。アヘンにハマってしまったので、時間きっかりにアヘンを一服もらおうとやってきたというわけさ!」(一同笑う)

「これは実にぴったりな説明だ」とMは思いました。Mの心はラーマクリシュナから離れず、「ドッキネッショルに出かけるまであと何分」と時を数えていたのでした。

ラーマクリシュナは若者たちと大はしゃぎにはしゃいでいました。抱腹絶倒のとどろきが部屋に響きました。Mは思いました。「これがサマーディに入って、神の愛の歓喜に浸っていた人だろうか?」

どのように神を思う? 神を見ることは可能か?

神を悟ることが人生の目的だと、Mは心底から理解しました。彼はラーマクリシュナに尋ねました。「どのように神を思えばいいのでしょうか?」

師「神の御名をいつも唱え、讃歌をいつも歌っていること。それから神の信仰者や出家修行者、聖者となるべく親しくつきあうようにすることだ。

世間で、世俗の仕事に朝から晩まではまりこんでいたら、神を思い出す暇もない! だから時どき独りにならなければ神を心に抱きつづけることは難しい。

樹も若いうちは周りに囲いをしておかなくてはね。囲いがないと、ヤギや牛に食われてしまうよ。瞑想するなら、人の来ない場所か森の中に行なってすることだ」

M「神を見ることは可能でしょうか?」

師「無我夢中になって、神を求めて泣けば見ることができる。妻子のためなら人は水がめいっぱいもの涙を流す。金のためなら涙の池で泳げるほど泣く。

ただ、神を求めて誰が泣いている? 本気になって神を呼ぶことだ

Mは静かな所で独り修行をすることを始め、また、仕事休みの日はラーマクリシュナの元へ通いました。

母なる神はラーマクリシュナにこう告げました。「この信者は家庭にとどまり、そして世俗の火を燃やしてそのちりあかを落とした人々に、バーガヴァタ(神の化身の物語)を読み聞かせるだろう

ラーマクリシュナは常にあたたかいまなざしをMに注ぎ、彼が世俗に巻き込まれないように、注意深く見守っていました。しばらくMの訪問がないときには、なぜ来ないのかとその原因を問いただしたほどでした。

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