指導者としてのトゥリヤーナンダ
トゥリヤーナンダは生徒たちすべての言動に、注意深く目を光らせました。彼らは都会の生活から突然、荒野の生活に移ってきたのです。
風紀を保つためにトゥリヤーナンダは、たびたび訓戒を述べました。「世間の諸事情は忘れよ。ここでは母なる神一辺倒であれ。ここに都会を入れてはならない。一切を忘れて母を思え」
生徒の一人が霊能力を持っていました。彼女の特技は自動書記でした。鉛筆を手にしてリラックスすると、その手は自動的に動き出し、さまざまな文章ができあがるのです。
ある日、トゥリヤーナンダは、それをしている彼女を見て𠮟りつけました。「この馬鹿げたことは何だ! あなたは幽霊に取りつかれたいのか? そんな無意味なことは止めてしまえ!
われわれは解脱を欲しているのだ。すべての世界を超越したいのだ。なぜあなたは死者たちと交信したいと思うのか? 彼らは放っておけ。それはすべてマーヤー(幻影)だ。マーヤーを脱して自由になりなさい!」
別のある日、トゥリヤーナンダは語りました。聖ラーマクリシュナが「自分は西洋諸国に弟子たちを持つようになる」と予言したことを。そして「ここにいるみなも彼の弟子だと信じている」とトゥリヤーナンダはつけ加えました。
この発言は生徒たちを大いに興奮させました。生徒の一人がこう言いました。「自分にそんな祝福を受ける価値があるとは、とても信じられません!」
トゥリヤーナンダはしばらくの間黙っていました。
そして、声に感動を込めて言いました。「神がわれわれの価値の程度をお計りになりますか?」と、そして「善くても悪くても、あなたは母の子供なのですぞ」と伝えました。
この生徒はその後まもなく不治の病にかかりました。彼女は一つの不平も言わず、聖ラーマクリシュナの名を唱えながらこの世を去りました。
また、ある朝の学習中にトゥリヤーナンダは、師に関する多くの秘密を生徒たちに語りました。学習が終わって彼は自分のテントに戻りました。
「わたし舌を噛んでしまった」と彼はグルダースに明かしました。口の中に少量の出血がありました。これは秘密を明かしてしまった罰だと彼は感じていました。
「恐らく母なる神が、師について多くの秘密をもらすことを嫌ったのだ。生徒たちのある者はまだ、高い教えを受け入れる用意ができていないのだろう」と言いました。
あるとき、生徒の一人が鉛筆を削っていました。先の方はギザギザで左右均整ではありませんでした。
トゥリヤーナンダはそれに気づき、鉛筆を取り上げました。ていねいにギザギザの木を削り、芯を均等に出して美しく仕上げました。
それを彼女に返しながらこう言いました。「あらゆる行為を母なる神への捧げものとしなさい。できる限り完全に行うようにしなさい」
またあるとき生徒が、「このアシュラムでは、あきらかに気質の違う生徒たちが、なぜこのように平和に暮らせているのでしょうか?」と尋ねました。
トゥリヤーナンダは「わたしたちが母なる神に誠実であるなら、物事が悪くなる恐れはない。しかし母なる神を忘れた瞬間、大きな危険が待ち受けている。だからわたしはいつも君たちに、母なる神を思え、と言うのだ」と答えました。
ときおりトゥリヤーナンダは、炎のような激励の言葉を生徒たちに投げかけました。
「拳を固めて言え、『私は勝つ!』と。やるなら今だ。まさに今生で神を悟ることを、君たちのモットーとせよ。それが唯一の道だ。決して先延ばしにしてはならない。これが正しいと知ったら、実行せよ。それもすぐに実行せよ。
どんなチャンスも見逃すな。失敗への道は、歩きやすく舗装されている。そこを通っては駄目だ。覚えておきなさい。人生は短く、忍耐強い人のものだ。弱い人は負ける。いつも心していなさい。決して屈してはならない」
グルダースへの別れの言葉
トゥリヤーナンダは、様々な気質や観念を持つ西洋の生徒たちを相手に、不断の教育と訓練を施しました。この仕事の緊張は非常に強く、彼の健康が損なわれました。環境の変化と休養が必要になりました。
彼はインドに帰国している最愛の兄弟弟子、ヴィヴェーカーナンダに会いたがっていました。それゆえ、長い船旅と彼との再会は良きリフレッシュ休暇になるだろうと、トゥリヤーナンダにインド行きの乗船券が贈られました。
その後、トゥリヤーナンダは母なる神のヴィジョンを見ました。彼女は言いました。「アシュラムにとどまれ」と。しかし彼はそれを断わりました。
「もしあなたがここに滞在するなら、仕事は急速に成長し、多くの立派な建物ができるであろう」と母なる神は告げました。
それでもトゥリヤーナンダは断わりました。ついに母は、たくさんの弟子たちが集っているヴィジョンを彼に見せました。
トゥリヤーナンダは懇願しました。 「わたしをまずスワミジ(ヴィヴェーカーナンダ)のところに行かせてください」すると母は、沈痛な面持ちで姿を消しました。
このヴィジョンは、彼の気持ちを暗く不安にさせました。トゥリヤーナンダはため息をついて、グルダースに言いました。「わたしは悪いことをした。しかし今はどうしようもない」
最後の朝、グルダースが師の出発の準備で忙しくしていると、トゥリヤーナンダから呼ばれました。トゥリヤーナンダはいつものように静かに床に座っていました。彼は自分の前に座るように身ぶりで命じ、非常に優しい声で話しました。
「このアシュラムで修行したい人々、つまり母の子どもたちのために、わたしは君を残して一切を任せる。わたしは君にすべてのことを話した。
何一つ隠しだてはしなかった。心の奥底の秘密までも話した。君はわたしがここでどのように生きたかを見た。今から同じことをするよう、努力したまえ」
「しかしそれは不可能です」とグルダースはさえぎりました。
彼を優しく見つめて、トゥリヤーナンダは言いました。「一切を母にお任せしたまえ。彼女を信頼したまえ。そうすれば彼女が導いてくださる。彼女は君を迷わせることはしない。わたしはそれを信じている。
一つだけ覚えておきたまえ。決して何びとをも支配しないこと。全ての人を等しく眺め、全ての人を等しく扱いたまえ。全てに耳を傾け、公正であれ」
「やってみましょう。しかしこれは実に大きな責任です」とグルダースは答えました。
「なぜ君が責任を感じなければならないのか?」とトゥリヤーナンダは言いました。
「母だけに責任があるのだ。君は彼女への奉仕に生命をささげたのだ。何も恐れることはない。ただ誠実であれ、そしてつねに彼女を思っていたまえ」
それからトゥリヤーナンダは上体をゆらしながら、聖音「オーム」を唱えはじめました。突然、姿勢を正して力をこめて言いました。
「怒り、嫉妬、プライドを制御せよ。また決して陰口を言うな。全てのことから解放されて自由であれ。
何かをなすべきときは、まず君から手をつけたまえ。他の人々も従うだろう。わたしがここであらゆる肉体労働をしたことを、君は知っているはずだ」
馬車の用意ができ、トゥリヤーナンダは呼ばれました。彼はグルダースの頭上に手を置き祝福しました。
「君は母のものであり、母は君のものである」
これがトゥリヤーナンダの別れの言葉でした。彼の目は濡れていました。
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