ブラフマーナンダの生涯(6)弟子から見た師ブラフマーナンダの愛

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弟子ヴィジャヤーナンダの無益な実験#1

ブラフマーナンダがベルル僧院に滞在している間は、毎朝4時半に、たくさんの僧侶たちが彼の部屋に集まり、瞑想しました。全員が坐れる場所はないため、あふれた者たちはベランダに坐りました。瞑想は3時間続き、それから45分間、賛歌が歌われました。

その中に、若い新参の弟子ヴィジャヤーナンダもいました。彼はまだ瞑想に馴染んでいませんでしたが、なぜかブラフマーナンダの部屋での瞑想だけは、今までにない至福と平安を感じるのでした。

ヴィジャヤーナンダはこの秘密を明かすためにある実験をしてみました。ブラフマーナンダとみなが瞑想している時に、心の中でわざと騒がしい思いを起こしてみたのです。

しかしこの実験は長く続けられませんでした。目に見えない奇妙な圧力によって、ヴィジャヤーナンダの心は静かにさせられたのです。それでも実験しようとすると、両足にむずむずする感じが起こり、やがてそれが大変強くなって、彼は席を立つしかなくなったのでした。

ヴィジャヤーナンダはこの実験を三日間続けました。彼はブラフマーナンダの部屋に呼び出されました。ブラフマーナンダは言いました。

「これ、わたしの息子よ、もし君がわたしについて何か実験をしたいと思うなら、わたしがひとりのときにしなさい。このように朝早く、みなが瞑想をしているときには、それをしないようお願いする。君が反対の思いの流れを起こしていると知ったら、みなが怒って君を叱るだろうからね」

ヴィジャヤーナンダは深く恥じ入りました。そして、ブラフマーナンダは弟子の心の中で起こったことをすべてご存じであり、またみなの心を静め、至福と平安でハートを満たしていたのも、ブラフマーナンダ自身であることを理解したのでした。

弟子がブラフマーナンダを観察する

毎日、午後になると、たくさんの在家の人びとが悩みを抱えてブラフマーナンダを訪ねてきました。農夫、科学者、医師、弁護士、著述家、小説家、芸術家、若い大学生、雇い人、召使い。

彼らはまるで強い愛の流れに引き寄せられるように感じました。あらゆる階級の人びとが差別なしにブラフマーナンダのまわりに集まり、会合は彼が醸し出す喜びのムードの中で行なわれました。

たとえばある婦人に対してブラフマーナンダは「お母さん、先週のあなたの料理は何とおいしかったこと! だがもしこの香料を加え、それから家の祭神にお供えしたら、自分がどんなに幸福を感じるか、わかるでしょう。

あなたはいつも、家族のために料理をしてきた。これからは神のためにそれをなさい。すると息子たちも、おさがりをいただいてもっとよい気持になるでしょう」と言いました。

会合が終わって一同が階段を降りて行くとき、彼らは言うのでした、「マハラジ(大王)はほかの誰よりもわたしを愛しておられる!」

ヴィジャヤーナンダはこう思いました。「これは何という集まりだ。祈りや離欲や、瞑想の仕方についての、何のアドバイスもなかったではないか。マハラジは誰にも、苦行のことや、どのような修行をせよ、というようなことはおっしゃらなかった。それでもここではみなが、彼は霊性の海だ、と言う。さっぱり分からない!」

しかしそのような批判的な目で見ながらも、ヴィジャヤーナンダのブラフマーナンダへの愛は深まるばかりだったのです。

ある日の午後、ブラフマーナンダはヴィジャヤーナンダを自分の部屋に呼ぶと、ほほえみつつ冗談めかしてこう言いました。「わたしの息子よ、君がわたしを観察しているときには、わたしも君を観察している。

人びとは何もかも持っているのだが、無智とうぬぼれとエゴイズムにまぎれて、神の現前を感じることを忘れている。純粋の愛が、すべての病の療法である。真剣で浄らかな愛によって、あなたは他者を助けることができるのだ。

この神の愛がなければ、すべての霊性の修行は無益である。エゴイズムのない愛だけが、人のすべての不純性を浄める。わかるか、わたしの息子よ。それを実践するよう、努めなさい

そのときヴィジャヤーナンダは、この教えの意味を理解することはできませんでしたが、真のイニシエーションを受けたように感じました。

ヴィジャヤーナンダの無益な実験#2

「聖ラーマクリシュナは今でも真摯な信者たちの前にお現われになる」と、かつてヴィヴェーカーナンダは述べていました。そして彼の兄弟弟子たちも、同様に主張していました。しかしヴィジャヤーナンダはこれを信じられませんでした。

ある早朝、ヴィジャヤーナンダはブラフマーナンダの部屋に行く代わりに聖堂に行き、強く心に思いました。「聖ラーマクリシュナの出現が本当なら、どうぞ彼がわたしに聖クリシュナの足輪の鈴の音を聞かせて下さいますように」

すると驚いたことに、ヴィジャヤーナンダは直ちに鈴の音を聞いたのでした。彼は自分の信仰心のなさが恥ずかしくなりました。しかし一瞬の後に彼はまた推論をはじめ、「あの音は自分の強い自己暗示の錯覚であった」と結論しました。

その三日後にヴィジャヤーナンダは、再び実験をしようと聖堂に行き、心の中でこう思いました。

「もしこの早朝に、漁師の女が来て大声で魚の名を叫んだら、わたしはあなたが本当においでになることを信じましょう」

彼が心の中でこのようにお願いし終わるや否や、彼は漁師の女が叫ぶのを聞きました。僧侶の一人は、

「瞑想の時間であるこの早朝に、静けさを破るとは!」と怒って、この哀れな女性を叱るべく階段を降りて行きました。

ヴィジャヤーナンダはたいそう恥ずかしく思い、叫びつつ、急いで階段を降りようとしました。そのときそこに、ブラフマーナンダが立っていました。

そしてヴィジャヤーナンダに向って厳しい口調でこう言いました。「こんなテストはもうたくさんだぞ。わかったか、二度としてはならない!」

ヴィジャヤーナンダは、「二度といたしません」と、泣きながら答えました。

こうしてヴィジャヤーナンダの無益な実験の日々は終わったのでした。

ブラフマーナンダから弟子への小言

あるときブラフマーナンダは、新参者の弟子プラバーヴァーナンダに、ある用事を言いつけました。しかしプラバーヴァーナンダは師の言いつけの意味を十分に理解しておらず、師の指示を完全に守れませんでした。

するとブラフマーナンダはプラバーヴァーナンダに対して、その日の午後いっぱい、小言を言い続けました。

夕食になり、ブラフマーナンダの兄弟弟子のトゥリヤーナンダがやってきました。食事中、プラバーヴァーナンダは二人を扇いでいましたが、その間中もずっと、ブラフマーナンダは小言を言い続けていました。

トゥリヤーナンダがプラバーヴァーナンダに言いました。「なぜマハラジが君に対してこんなに厳しいのか、わかるか?」

「いいえ、実はわからないのです」プラバーヴァーナンダがそう答えると、トゥリヤーナンダは言いました。

「三段階の弟子があるのだ。

  • 第三級の弟子は、ただグルの命令を行なうだけだ。
  • 第二級の弟子は、言葉で命ぜられる必要がない。グルの心中に思いがわくと同時にそれを行う。
  • しかし第一級の弟子は、グルが思う暇もないうちに行なうのだ。

マハラジは君たちにみなに、第一級の弟子になってもらいたいと思っているのだよ」

ある日もプラバーヴァーナンダは、彼のミスによってブラフマーナンダから小言を言われ続けました。しかしそれが誤解だとわかった後も、ブラフマーナンダは小言を言い続けました。

プラバーヴァーナンダはこの小言が表面上の理由ではなく、彼の心のけがれを落とすための師の愛であることに気づきました。

蜂の巣をつついたばかりに

またあるとき、プラバーヴァーナンダは独りでの苦行生活にあこがれ、ブラフマーナンダに許可を申し出ました。するとブラフマーナンダは言いました。

「よしよし、では、ナルマダ河に行って苦行をせよ。そして、君に何ができるか見せてくれ!」

ブラフマーナンダは実は本気で言ったわけではなかったのですが、プラバーヴァーナンダは師の許可を得たと思い込み、出発の準備を始めました。

しばらくして、毛布や衣類などの準備を整えたプラバーヴァーナンダは、いとまを告げて祝福を得るために、ブラフマーナンダのもとにやってきました。

ブラフマーナンダはびっくりした様子で、「君はどこに行くんだ?」と尋ねました。プラバーヴァーナンダは、「ナルマダ河に行って苦行をすることを、あなたもお許しくださいました。これから参るところでございます」と答えました。

ブラフマーナンダは、一人息子を失おうとする父親のようになり、兄弟弟子のシヴァーナンダを呼ぶと、彼に事情を説明し、興奮しながらこう言いました。

まあ、兄弟よ、この子が苦行をしたいと言うのだよ! この子たちがあんな事柄について何を知っていよう。彼らがなぜ苦行をしなければならないのか。わたしたちがすべて、彼らの代わりにやったではないか

そしてブラフマーナンダの意識は高く高く引きあげられ、高度な教えを語り始めました。他の出家修行者たちも続々と部屋に集まりました。ブラフマーナンダは神秘的なムードのまま、3時間も話し続けました。

「一人の在家信者の方がお目通りを願っています」と告げられたブラフマーナンダは、「もう続けられない。心が低いレベルに降りてしまった」と言って話を止めました。

シヴァーナンダはプラバーヴァーナンダに言いました。「今日わたしは、今まで知らなかった数々のことを学んだ。君がマハラージの蜂の巣をつついたばかりに

ブラフマーナンダのいたずら好きな一面

ブラフマーナンダにはいたずら好きな一面がありました。

あるとき、ブラフマーナンダはたわむれに、瞑想している弟子のそばに果物を置かせました。その弟子が瞑想から覚めると彼は「さて、君は修行の果実を得たかね」と尋ねたのでした。

こんなエピソードがあります。兄弟弟子のアカンダーナンダが、ブラフマーナンダのもとに長く滞在した後、彼が担当する僧院に帰ることになりました。

兄弟弟子を深く愛するブラフマーナンダは、アカンダーナンダにもう少し長く滞在してくれるように頼みましたが、彼は聞き入れませんでした。

そこでブラフマーナンダは、何マイルか離れた駅までアカンダーナンダを送るために、かごを雇いました。汽車は早朝に出発するので、かごは夜更けに出発しなければなりませんでした。

出発前に、ブラフマーナンダはかごかきに何かをささやきました。真っ暗だったので、アカンダーナンダはかごのカーテンを閉めて、落ち着きました。

たびたびかごが止まるので、アカンダーナンダは「何事か」と尋ねると、そのたびに彼らは「少し休憩するために止まった。時間は十分あるから心配はいらない」と答えました。

何時間か経った後、かごかきは「ようやく目的地に着いたのでかごから降りてくれ」と言いました。アカンダーナンダがかごから降りると、なんと目の前にはブラフマーナンダが立っていて、まるで久々に再会したかのように挨拶しました。

アカンダーナンダは、ブラフマーナンダのいたずらによって、一晩中、僧院の境内を走り回されていただけだったと知って、大笑いしました。そして二人は抱きしめ合い、二人は子供のように笑い合いました。

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