【参の技法】ムーラ・バンダの驚異:骨盤底筋を強化して生命力を高める方法

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はじめに:ムーラ・バンダとは、骨盤底筋の締め上げ

ヨーガ呼吸法を学ぶにあたってマスターしたい7つの技法の今回は【参の技法】ムーラ・バンダです。

バンダはプラーナ(生命エネルギー)をコントロールするための必須のテクニックです。バンダがあることによってヨーガ呼吸法の効力が倍増すると言っても過言ではありません。


言い換えると、バンダこそがヨーガ呼吸法を特別なものにしているのです。それだけ重要な技法なのです。 

バンダには二つの働きがあります。

  1. プラーナを外に漏らさないこと
  2. プラーナを特定の方向へ導くこと

そして私たちが修得すべきバンダは3つあります。

  1. ムーラ・バンダ(骨盤底筋のバンダ)
  2. ウッディーヤーナ・バンダ(おなかのバンダ)
  3. ジャーランダラ・バンダ(のどのバンダ)

バンダ』はサンスクリット語で、「蓋をする」「締める」を意味し、『ムーラ』は「」を意味し、体幹の根っこである骨盤底筋を指しています。ムーラ・バンダとは、骨盤底筋を意識的に強く締め上げるテクニックです。

今回はこのムーラ・バンダについてわかりやすく解説します。そのやり方や効果、練習方法、ポイントや注意点、体験談などをご紹介します。ぜひマスターしてください。

ムーラ・バンダのやり方

ムーラ・バンダのやり方は非常に簡単です。「肛門を意識的に強く締め上げる」だけです。または「おならやオシッコを我慢する」「膣の入り口を縮める」ような感覚で骨盤底筋を締め上げます。


ヨーガの経典『ハタ・ヨーガ・プラディピカー』には、

肛門を収縮し、アパーナの気を上方へ引き上げるならば、それはムーラ・バンダといわれる

と書かれています。

アパーナ気とは、生命エネルギーであるプラーナの五つの区分の一つです。これは排泄を司るエネルギーで、下腹部にあり、本来下へ向かう性質を持っています。ムーラ・バンダによってアパーナ気の下向きのエネルギーを漏らさないように遮断し、上昇させるのです。

骨盤底筋の役割と弱点

骨盤底筋とは何か? その重要な役割とは?

骨盤底筋は、骨盤の底(恥骨、尾骨、座骨の間)に位置する筋肉群であり、尿道・腟・直腸が通過する穴が開いています(男性は直腸のみ)。骨盤底筋には重要な3つの役割があります。

1.内臓が下がらないように支える

骨盤の底の部分には骨がなく、膀胱や子宮、大腸などの内臓は骨盤底筋によってハンモックのように下から支えられています。

2.排泄のコントロール

骨盤底筋は膣や肛門、尿道口を動かすときに使われる筋肉で、力を入れたり緩めたりすることで、便や尿をとどめたり排出したりすることができます。骨盤底筋がゆるんでしまい十分に機能しなくなると、排泄時のコントロールがしにくくなります。

3.姿勢の安定

骨盤底筋はインナーマッスルの一つであり、腹筋や横隔膜など他の筋肉と協力して体幹を安定させています。骨盤底筋が緩むと体幹が安定せず、姿勢を保ちにくくなります。

骨盤底筋の弱点とは?

骨盤底筋は筋力の低下が起こりやすいという弱点があります。以下の原因によって骨盤底筋は弱ってしまいます。

  • デスクワークなどで長時間座りっぱなしや運動不足
  • 肥満
  • 姿勢の悪さ
  • 妊娠や出産
  • 加齢

骨盤底筋が弱ると尿漏れの原因となることがあります。特に女性の中にはこの悩みを抱えている方も多いでしょう。  

また、骨盤底筋の弱まりにより便失禁や腰痛などの問題も生じる可能性があります。さらに、骨盤底筋の弱まりによって内臓が下に下がり、おなかがぽっこりと出てしまったり、血流が悪くなって様々な不調が生じることもあります。

実践:ムーラ・バンダ~骨盤底筋を鍛えよう!

弱りやすい骨盤底筋ですが、筋肉であるためトレーニングによって強化することができます。ムーラ・バンダとは骨盤底筋の締め上げ、当然、骨盤底筋のトレーニングにもなります。

プラクティス1:腹式呼吸にムーラ・バンダ

ヨーガ呼吸法においてバンダは主に「止める息」の際に活用します。ここでは腹式呼吸でご説明します。以下の手順で行います。

正しい坐法を取ってから、

①お腹を膨らませながら息を吸い込みます。
②息を止めてムーラ・バンダをかけます(肛門を締め上げます)。このまま適度な時間保息し、バンダを保持します。
③バンダを緩めて、ゆっくりと息を吐きます。
これらを3分~10分程度繰り返します。


呼吸法に取り入れること自体が骨盤底筋を鍛え、すなわちムーラ・バンダを強化する良い練習となります。締めることはできても、バンダの状態を維持することが難しく感じられるでしょう。

はじめのうちはわずか数秒で緩んでしまうかもしれません。しかし、トレーニングを続けることで強化され、維持できるようになります。

ポイント1:締める場所の意識の仕方

これまで締め上げる場所を「肛門」や「骨盤底筋」と表現しましたが、「会陰」や「」を締める感覚の方がしっくりくる方もいます。結果的には同じ効果が得られますので、自身に合った感覚で行って大丈夫です。

プラクティス2:ヨーガ呼吸法にハイスピード・ムーラ・バンダ

ハイスピード・ムーラ・バンダとは、ムーラ・バンダを強化するためのプラクティスです。わかりやすいように松下がこの名前を付けました。1秒間に1、2回のペースで「キュッ、キュッ、キュッ、キュッ」と肛門を締めたりゆるめたりを繰り返します。

ここでは完全呼吸法を使ってご説明します。以下の手順で行います。

正しい坐法を取ってから、

①お腹を膨らませながら息を吸い

②さらに胸を膨らませながら息を満たしていきます。

③息を止めてから(クンバカ)、肛門を締めたりゆるめたりを繰り返します(ハイスピード・ムーラ・バンダ)。

④無理のない時間行った後、ハイスピード・ムーラ・バンダを終えてゆっくりと息を吐いていきます。

これらを3分から10分程度繰り返します。

ポイント2:「締めて」+「上げる」

最初は「締める」だけでも構いません。慣れてきたら「締める」だけでなく「上げる」感覚も取り入れましょう。締めてエネルギーの漏れを防ぎ、上昇させることでムーラ・バンダの効果を高めます

プラクティス3:日常生活でハイスピード・ムーラ・バンダ

骨盤底筋が強化され、保息の時にムーラ・バンダをかけても緩まなくなることを目標に、ハイスピード・ムーラ・バンダを日常で実践することをオススメします。

「質より量」を重視します。プラクティス1、2のように呼吸法と連動しなくてもオッケーです。

ハイスピード・ムーラ・バンダは立位や座位、臥位の姿勢でも実践することが可能です。日常のスキマ時間で行いましょう。「ながら」でもオッケーです。例えば、

  • 電車でつり革を持って立っているとき
  • 待ち合わせの時間
  • お風呂のなかで
  • 本やスマホ、テレビを見ながら
  • PCで作業しながら

肛門を締めたりゆるめたりを繰り返します。工夫次第であらゆる場面での実践が可能になります。

これらのトレーニングを高頻度で行うことで、3カ月から半年で効果を実感することができるでしょう。

ムーラ・バンダの注意事項

1.ムーラ・バンダの実践は排便時に力を入れる方法とは異なりますので、注意が必要です。排便時の力の入れ方ではなく、むしろ下痢や尿意をこらえるときの力の入れ方に近いイメージで行いましょう。

2.締めるのは肛門や骨盤底筋のみです。お尻の大きな筋肉や腿、腰の筋肉は意識的にリラックスさせましょう。

松下師恩の体験談

肛門を100万回締めなさい」と、ハタ・ヨーガの行者である成瀬雅春氏の著書に書かれていました。私はさっそくハイスピード・ムーラ・バンダを100万回試すことにしました。

その時、私は膝の半月板断裂という怪我をしており、自宅で療養中でした。この時間を利用してヨーガや仏教の書物を読み漁りながら、同時に肛門を締め続けることにしました。

一日に1万回以上のペースで、左手にはカウンターを握り、親指でボタンを連打しました。カウンターとは『日本野鳥の会』などが使っている数取り器のことです。

数珠を用いて数えることがヨーガの伝統ですが、現代ではカウンターが便利です。私は3か月の間に100万回を達成しました。驚くべきペースです。

最初は肛門(骨盤底筋)がこのような負荷に耐えられるのか心配でしたが、予想以上に頑強でした。筋肉痛や他の異常な症状もなく、静かにムーラ・バンダを続けることができました。

私はムーラ・バンダで得られる成果を、十分に実感できるようになりました。ここからは余談になります。

この結果に気を良くした私はさらに「100万回!」すなわち合計200万回の目標を立てました。しかしこれは130万回で断念せざるを得なくなりました。

意外なことに骨盤底筋ではなく、私の左親指に限界が来たのです。当時使っていたカウンターのボタンはそこそこバネが効いており、ワンプッシュ毎に「ガチャ!ガチャ!」と音が出ます。

通常使いでしたら、全く問題のないこの機械ですが、1秒間に1、2回のペースで1日1万回を4カ月間、使用されることは想定外だったのでしょう。私の左指は悲鳴をあげ、腱鞘炎になってしまいました。

ハイスピード・ムーラ・バンダを断念したのではなく、カウントを止めざるを得なかったというわけです。ですので、その後もカウントなしで締め続けました。

さらに蛇足ですが、それから幾年か経った後、ソフトプッシュでカウントできる新しいタイプのカウンターが出回っています。

よくある質問:「ムーラ・バンダができているかわかりません」 

生徒さんから、よく寄せられる質問です。簡単な確認方法があります。

指先で肛門(もしくは会陰)に触れてみることです。衛生面には気をつけてくださいね。お風呂の中や、薄手の物であれば衣類の上からでも大丈夫です。触れながらムーラ・バンダをかけます。

指先でその部位に動きが感じられたら、ひとまずできていると考えてオッケーです。熟達してくると、バンダをかけるとプラーナの動きが感じられるようになります。

呼吸法クイズ

問1:ムーラ・バンダはどこの筋肉を意識的に強化するテクニックですか?

a) 腹筋
b) 背中の筋肉
c) 骨盤底筋
d) 脚の筋肉

問2:バンダには二つの主要な働きがあります。それは何ですか?

a) プラーナの速度を変えることと方向を変えること
b) プラーナを外に漏らさないことと特定の方向へ導くこと
c) プラーナを加速することと制御すること
d) プラーナを蓄えることと放出すること

問3:骨盤底筋が弱まると、どのような問題が生じる可能性がありますか?

a) 眼の疾患
b) 頭痛
c) 脚の筋肉痛
d) 尿漏れ

答えは【まとめの章】の最後にあります。

まとめ:「ムーラ・バンダは老いを破壊する」

アパーナ気は下降するエネルギーであり、排泄や出産を司ります。このアパーナ気が下にだだ漏れになると、生命エネルギーが低下し老化し、枯渇して死に至ると考えられています。

ムーラ・バンダは生命エネルギーの漏れを防ぎ、アパーナ気を上昇させる役割を果たします。『ハタ・ヨーガ・プラディピカー』には

ムーラ・バンダは老いを破壊する

と書かれています。アンチエイジングの効果もあるのです。

ムーラ・バンダは骨盤底筋を強化します。それにより、内臓のサポートがなされ、姿勢も安定します。また、尿漏れや便失禁の問題を改善し、腰痛の予防にも役立ちます。ヨーガ・ポーズの実践中でも、体幹を安定させるために、バンダをかけることが多いです。

ムーラ・バンダの実践は簡単でありながら、効果的な方法です。ここで紹介したトレーニングを正しく実践することで、誰でもムーラ・バンダを修得できるでしょう。

ムーラ・バンダは、ウッディーヤーナ・バンダ(おなかのバンダ)ジャーランダラ・バンダ(喉のバンダ)と同時にかけることが多いです。後の二つも、これからの記事で取り上げます。

バンダは一生もののスキルとなります。ポイントや注意事項を守りながら、ぜひマスターしていただきたいと思います。以上が、ムーラ・バンダの驚異的な効果と実践方法についての解説でした。

【答え】問1:c) 問2:b) 問3:d)

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