【弐の技法】床での坐法術:ヨーガ愛好者必見のポイント解説

pranayama

はじめに:床での正しい坐法をマスターしよう

ヨーガの経典『ヨーガ・スートラ』には、「坐は安定した、快適なものでなければならない」という一節があります。ヨーガや仏教の修行はもともと瞑想が中心であり、長時間の瞑想を行うためには特に適切な坐法が求められました。

【壱の技法】正しい座り方では椅子での座り方を学びました。その中で、「骨盤を立てる」ということと「坐骨立ち」という具体的な方法について説明しました。

今回は床での正しい坐法に焦点を当てて、解説します。基本原則としては、「骨盤を立てる」と「坐骨立ち」という点で全く変わりません。しかし、床ではさらに、足を組む方法が焦点となってきます。

インドの伝統では、固い地面にゴザなどを敷いて座ることが一般的でした。そのため、ヨーガも地面に座ることを前提に発展してきました。

もし皆さんがヨーガを長く愛好していくのであれば、床での正しい坐法をマスターすることをオススメします。椅子に比べて床での坐法は、

  • より安定した
  • より快適なもの

であるからです。実際、呼吸法や瞑想の効果においても、何割かの向上が期待できると言っても過言ではありません。そのメリットは非常に大きいのです。

現代は西洋文化の影響で椅子に座る習慣が広まり、日本人も椅子に座ることが一般的になりました。椅子は便利ですが、その一方で股関節や膝、足首の柔軟性が失われていく傾向があります。

しかし、日本人もかつては多くの時間を地面や床、畳の上で過ごしてきました。武道や華道、茶道などでは正座が一般的ですし、ジャパニーズ・シッティング・スタイルとしても知られるこの坐法は、日本文化の一部として世界で注目されています。

日本人は本来的に床での正しい坐法を身につける能力を持っているかと思います。次の章から、ヨーガの坐法について順を追って詳しく解説していきます。

この記事を通じて、皆さんが床での正しい坐法を身につけ、より豊かなヨーガの実践を享受できるようになることを願っています。さあ、ヨーガの坐法の世界へ一緒に進んでいきましょう。

スカアーサナ(Sukhasana):最もやさしいヨーガの坐法

ヨーガの坐法にも様々ありますが、最もやさしい坐法であるスカアーサナをご紹介します。スカアーサナ安楽坐あんらくざとも呼ばれ、ヨーガ教室でもよく紹介される坐法です。

スカとは、「簡単な」「楽しい」「心地良い」といった意味で、アーサナは「ヨーガのポーズ(坐法)」を意味しています。

スカアーサナの手順

①あぐらの姿勢から、手前においた足のかかとを会陰にあてます。もう一方のかかとも会陰の正面にくるように、手前に置いたかかとと前後に並ぶ形に添え置きます。(これがスカアーサナの脚の組み方です)

②ここからは椅子での正しい座り方とポイントは同じです。まず「坐骨立ち」をして「骨盤を立てる」ようにします。

③背筋をすらりと伸ばします。

④肩の力は抜き、上体はリラックスします。

これでスカアーサナの完成です。②~④は、上体を前後、左右にゆらしながら整えていくのも良い方法です。

ポイント:安定した坐法の秘訣はトライアングルにあり

椅子での座り方においては、坐骨と両足で頭上から見てトライアングルが形成されていますね。このトライアングルこそが安定感をもたらすのです。カメラの三脚をイメージしていただければご理解いただけるかと思います。

では床での坐法についてはどうでしょうか? 坐骨とあとの2つは何でしょうか? 正解は「膝」です。坐骨と両膝でトライアングルを作るのです。それができれば安定した坐法が可能になります。

しかし、スカな坐法と言えども股関節の固さから両膝が地面から浮いて離れてしまうと、安定感を失ってしまいます。バランスをとるために骨盤を後傾させ、背中を丸めがちになります。

股関節が固い人が取りたい3つのアプローチ

アプローチ1:クッションを使う

そのような時はクッションをお尻の下に入れてみましょう。ある程度高さを出したいので、中身の詰まったものが良いでしょう。

座禅用の座布や座布団、折りたたんだブランケットやバスタオル、ヨガブロックなども使えます。おしりが高い位置に来ることで、相対的に膝が下がりトライアングルが形成されやすくなります。

股関節を折り曲げる角度が緩和されるので、座りやすくなります。それでも両膝が浮く場合は、膝下にもクッションやヨガブロックなどを入れて安定させます。

アプローチ2:ヨーガのアーサナに取り組む

ヨーガのアーサナ(ポーズ)に取り組みましょう。またマッサージやストレッチ、筋トレなどで股関節の柔軟性を高め、可動域を広げることも有効です。

日々のアーサナの効果により、

  • 柔軟性が増し
  • 血液やリンパの流れが促進され
  • ナーディ(気道)のつまりは取れていき
  • 骨盤の歪みも解消され

正しい坐法を組める身体へと進化していきます。

アプローチ3:日常の生活で床や畳にヨーガの坐法を取る時間をつくる

床での坐法を取ること自体が、股関節に柔軟性を取り戻してくれます。日々の生活にヨーガの坐法を取る時間を作りましょう。

皆さんそれぞれの住環境などの事情はあるかと思いますが、ぜひ工夫なさってください。その時間を少しずつでもいいので増やしていきます。

アプローチ1は即効性があり対処療法的です。アプローチ2、3は時間がかかりますが、根本解決になります。

パドマ・アーサナ(Padmasana):ヨーガ、仏教における最上の坐法

スカ・アーサナが取れるようになった方に、難易度は高いですがチャレンジしていただきたい坐法があります。それがパドマ・アーサナです。

パドマ・アーサナとは

蓮華坐れんげざとも呼ばれます。英語ではロータスポーズ(Lotus Pose)、禅宗では結跏趺坐けっかふざと呼んでいます。泥沼の中からでも美しく咲き誇る蓮華は、ヨーガや仏教において悟りのシンボルとして大切にされています。

パドマ・アーサナの手順

①あぐら、または長座の姿勢から右脚を曲げて足を左の鼠径部そけいぶ(ももの付け根)に置きます。

②次に左脚を曲げて右脚の上にクロスさせるようにして左足を右の鼠径部に置きます。(パドマ・アーサナの脚の組み方です)

①②は左右反対でも構いません。

③「坐骨立ち」をして「骨盤を立てる」ようにします。

④背筋をすらりと伸ばします。

⑤肩の力を抜き、上体はリラックスします。

これでパドマ・アーサナの完成です。両脚を深く重ねて組むため、きわめて堅固な坐法で安定感は群を抜いています。これをマスターしたら長時間の瞑想や呼吸法が可能になります。

深く脚を組むことでプラーナ(生命エネルギー)が下方に逃げにくくなる、というメリットもあります。

股関節や膝関節、足首の総合的な柔軟性が求められる難易度の高い坐法ですが、時間をかけてでもマスターする価値はあります。

ブッダのエピソード

ブッダ(お釈迦様)は菩提樹の下で悟りを開く前に「無上の正しい悟りを得るまでは、この身が滅びようとも、肉が腐り、骨が折れようとも、この蓮華坐を外すまい」と決意して瞑想に入りました。そうです。ブッダが悟りを開いたときの坐法はパドマ・アーサナ(蓮華坐)でした。

松下師恩の場合

私が初めてパドマ・アーサナを取ろうとしたときは、まるで生木をへし折ろうとするような抵抗が脚にありました。関節が抜群に固かったのです。

手の力で無理やり脚をクロスに組んでみましたが、あまりの痛さのために1分ももたずに解くしかありませんでした。

そんな私でしたがスカ・アーサナに慣れ、座布を使い、片足だけのパドマ・アーサナに取り組み、日々アーサナを実践しながら進歩していきました。いまでは1時間でも涼しい顔でパドマ・アーサナが組めるようになりました。

アルダ・パドマ・アーサナ(半蓮華坐)

アルダとは「半分」を意味します。アルダ・パドマ・アーサナとは、片足だけのパドマ・アーサナのことです。半蓮華座半跏趺坐はんかふざとも呼びます。

あぐらの状態から片足だけを鼠径部に置きます(右足も左足もできるように訓練します)。

パドマ・アーサナで両脚が組めない場合は、このアルダ・パドマ・アーサナからチャレンジすると良いでしょう。

注意事項・禁忌事項

  1. 自分の限界を尊重する:ヨーガの坐法は身体の柔軟性やバランスが求められるため、自分の限界を超えることは避けましょう。無理な姿勢や痛みを伴う場合は、身体に負担をかけることになりますので、無理をしないようにしましょう。
  2. 関節に負担をかけない:正しい坐り方に注意し、関節に過度な負担をかけないようにしましょう。骨盤を立てる姿勢やクッションの使用など、安定した坐法を心掛けましょう。
  3. 専門家の指導を受ける:初心者や身体の特殊な状況を抱えている場合は、医師の指示やヨーガのインストラクターなどの指導を受けることをオススメします。適切な姿勢や動作を学び、安全かつ効果的にヨーガの坐法を行うことができます。
  4. 妊娠中の女性は慎重に行う:妊娠中の女性はヨーガの坐法を行う際には慎重になる必要があります。特に腹部への圧迫やバランスの崩れに注意しましょう。妊娠中の身体は変化しており、安定した姿勢を保つことが難しい場合がありますので、安全を最優先に考えて行動しましょう。
  5. 関節の痛みや怪我がある場合は注意する:関節の痛みや怪我を抱えている場合は、無理な力をかけたり負荷をかける姿勢を避けるべきです。関節に負担をかけることで痛みや損傷を悪化させる可能性がありますので、適切な範囲で行いましょう。

呼吸法クイズ

問1:ヨーガの経典『ヨーガ・スートラ』に説かれる坐法の基本的な原則は何ですか?

問2: ヨーガの坐法において、坐骨と膝で形成されるトライアングルの意義は何ですか?

問3: パドマ・アーサナ(ロータスポーズ)では、足をどこに置きますか?

※答えはまとめの章の最後にあります。

まとめ:ヨーガの坐法の世界へ

ヨーガの坐法にはさまざまなバリエーションがありますが、ここではスカ・アーサナ(安楽座)パドマ・アーサナ(蓮華座)を紹介しました。

スカ・アーサナは比較的簡単な座り方であり、初心者にも取り組みやすいです。安定感を得つつ、身体をリラックスさせることができます。

パドマ・アーサナはより高度な座り方であり、股関節や膝関節、足首の柔軟性が求められます。しかし、マスターすることで長時間の瞑想や呼吸法を行うことができるようになります。

股関節の柔軟性が不足している場合は、クッションを使ったり、ヨーガのアーサナなどを取り入れることで改善することができます。また、日常生活で床や畳に座る時間を増やすことも効果的です。

ただし、坐り方に苦手意識や不快感を感じる場合は、自分の身体の限界を超えずに無理をせずに取り組むことが重要です。無理な姿勢や痛みを伴う場合は、専門家の指導を受けることをおすすめします。

ヨーガの坐法は、身体と心の調和を促し、瞑想や呼吸法の効果を高める役割を果たします。日々の練習を通じて、自分自身の身体と向き合い、柔軟性や安定感、快適さを高めていきましょう。

以上が床でのヨーガの坐法についての解説です。この記事を通じて、皆さんが床での正しい坐法を身につけ、より豊かなヨーガの実践を享受できるようになることを願っています。ヨーガの坐法の世界へ一緒に進んでいきましょう。

【答え】問1:「坐は安定した、快適なものでなければならない」。問2:安定感をもたらす。問3:足と反対側の鼠径部(ももの付け根)に置く。

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