【サーラダーの苦境】
かつてラーマクリシュナはサーラダーに、自分の死後は彼の故郷であるカマルプクルに住むように指示していました。巡礼の旅が終わると彼女は、カマルプクルに向かいました。サーラダーはそこで孤独と貧困と人々の非難に耐えながら一年を過ごすことになるのです。
ラクシュミー(ラーマクリシュナの姪)は、カーリー寺院で神職を務めていた兄のラムラルの元に身を寄せることになり、サーラダーは夫に実家に一人で住むことになりました。
ラーマクリシュナの死後、カーリー寺院の事務局は月々7ルピーの遺族年金をサーラダーに支給していました。ところがラムラルが、「ラーマクリシュナの裕福な信者たちが彼女のお世話をするので、寺院からの支給は必要ない」と、勝手に支給をストップさせたのです。
サーラダーは、これに何の抗議もせず冷静にこう言いました。「支給を止められてもかまいません。師を失ったわたしが、あの人たちのお金でどうするというのです」
サーラダーは赤貧の日々を送りました。ときには、ご飯にかける一つまみの塩さえもない有様でした。そんなときでも、「金銭のために他人に手を差し出してはいけない」という師の忠告を思い出し耐え忍びました。
あるとき、サーラダーはジャイラムバティの実家を訪れました。彼女の状況に気づいた母は、自分と一緒に暮らすように泣いて懇願しました。しかしサーラダーは同意せず、こう言いました。「わたしはカマルプクルに戻ります。神がわたしに定められたことを、わたしたちは知るでしょう」
このような経済的困窮に加えて、サーラダーはもう一つの問題を抱えていました。ラーマクリシュナの存在を確信していたサーラダーは、伝統のヒンドゥ未亡人とは異なって、既婚者の恰好である赤い縁取りのあるサリーと腕輪を身につけていました。
しかし保守的で偏屈な村人たちは、サーラダーのそうした態度を非難したのでした。どこへ行っても彼女は、人々の悪い噂の的になりました。
ラーマクリシュナから噴き出すガンジス河
あまりの苦悩にサーラダーは、聖なるガンジス河まで旅をしようかとふと考えました。するとその瞬間、彼女はその肉眼で、はっきりとしたラーマクリシュナのヴィジョンを見ました。
ラーマクリシュナはナレンドラやラカールやその他の弟子たちをひきつれて、道路を歩いて来ました。そして師の足元からは水が噴き出し、川となって流れ行くのを見ました。サーラダーは言いました。
「ああ、師はすべてでいらっしゃる。ガンガーは師の御足から湧き出たのです」サーラダーは急いで花をつむと川に捧げました。
ラーマクリシュナはこう言いました。「腕輪を外してはならないよ。ヴァイシュヴァナの聖典を知っているかね?」サーラダーが知らないと答えると、師は、ガウリー・マー(ラーマクリシュナの女性の弟子)が午後にやってきて、それについて説いてくれるだろう、と言いました。
午後になると、本当にガウリー・マーがやってきて、サーラダーに言いました。「あなたの夫は神ご自身に他ならないのですから、あなたが未亡人であるはずはありません」
このヴィジョンとガウリー・マーの言葉は、サーラダーの心に安堵をもたらしました。これ以降サーラダーは、人々の非難に耳を貸すことはありませんでした。
サーラダーの悲惨な生活ぶりが、カルカッタのラーマクリシュナの弟子や信者たちに伝わりました。彼らは驚きと嘆きのあまりに言葉を失いました。
彼らはお金を出し合って、手紙とともにサーラダーに送りました。自分たちが生活のお世話をするので、カルカッタに戻ってほしいと書いてありました。
サーラダーは、いずれラーマクリシュナの弟子たちと共に暮らすことを予期していました。しかし村人たちは、「未亡人であるサーラダーが若者たちの世話を受けて暮らすことなどありえない」と反対したのです。
この村に、プラサンナマイーという女性がいました。彼女は智慧の深さと、神への信心深さによって、村人たちから尊敬されていました。サーラダーが彼女に意見を求めると、プラサンナマイーはこう言ったのです。
「何をためらっているのですか。もちろん、カルカッタに行くのですよ。ゴダドル(ラーマクリシュナ)の弟子たちは、あなたの子供のようなものじゃないの。村人の噂話になんか、耳を貸すことはありません」
こうして1888年4月、サーラダーはカルカッタに向かいました。
ハリシュ事件
この時期に、ある事件が起こりました。
ハリシュは敬虔なラーマクリシュナの信者でした。彼が家庭に無関心なことに心を乱した妻が、夫の心を世俗に向けさせようと、ある薬を飲ませたのでした。それが原因で、ハリシュは頭をやられてしまったのです。
ある日、サーラダーを見つけたハリシュは、錯乱状態のまま彼女を追いかけ始めました。この時のことを、のちにサーラダー自身が、こう語っています。
「わたしの家には誰もいなかったの。わたしは助けを求めることもできずに、穀倉の周りを早足で歩きだしました。彼は追ってきました。わたしは七回その周りをまわって止まりました。
わたしは自分の本当の姿をとって彼を地面にねじ伏せると、両膝を彼の胸に乗せて強く彼を平手打ちしました。彼は息切れし始め、わたしの指は赤くなりました」
その後、ハリシュは正気に戻ると、ヴリンダーヴァンに向けて旅立ち、幸いなことにそこで正常を取り戻しました。
サーラダーのニルヴィカルパ・サマーディ体験
この時期のサーラダーは、ラーマクリシュナのようにサマーディにしばしば入るようになりました。師の弟子や信者たちは、彼女の神聖さにだんだんと気づくようになったのです。
例えばある瞑想におけるサマーディ体験を、サーラダーはヨーギーン・マーにこう語りました。
「はるか遠い国を旅してきたかのように思えました。人々はわたしにたいそうやさしくしてくれました。わたしは非常に美しい姿をしていました。
師がそこにおられました。彼らが優しく師のそばにわたしを座らせました。あの時のわたしの喜びを言葉で表わすことはできません。
意識を一部回復すると、すぐそばに自分の肉体が醜い屍のように横たわっているのが見えました。それで肉体に入っていくのが不安になりだしたのです。
全く戻る気持ちにはなれませんでした。長い間あってようやく、わたしはその肉体に戻る決心をし、再び肉体世界の意識に返ったのでした」
またあるとき、深いサマーディに没入していたサーラダーは、半ば意識を取り戻すと、「おお、ヨーギン!私の手はどこかしら。足はどこかしら」と叫びました。
ヨーギン・マーが彼女の手足を押して言いました。「手足はここにございますよ!」サーラダーが肉体意識を取り戻すまで、長い時間がかかりました。
これは以前ヴィヴェーカーナンダが体験したものと同様で、不二一元のニルヴィカルパ・サマーディの状態でした。
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