【感動秘話】師トータープリーとラーマクリシュナの物語(2)

Ramakrishna world

【ラーマクリシュナのニルヴィカルパ・サマーディ】

トーターはサマーディに入った弟子のそばに長い間座っていましたが、やがて小屋の外に出て、誰からも邪魔されないように扉に鍵をかけました。そしてパンチャヴァティに座って、ラーマクリシュナが瞑想から戻るのを待ちました。

しかし夜が来ても、朝になっても、小屋からは物音一つ聞こえてきません。三日が経過しました。トーターは好奇心と驚きに満たされて、扉を開けました。するとラーマクリシュナは、トーターが小屋を出たときと全く同じ姿勢で座っていたのです。その顔は静かな光輝にあふれていました。

サマーディの神秘に通じているトーターは驚嘆しました。「これは本当に事実なのだろうか。この偉大な魂は本当に、わたしが40年にわたる厳しい修行の結果として得たものを、一日のうちに悟ったのだろうか? ああ、神のマーヤーのなんと不可思議なこと!」

トーターは弟子の心臓が動いているかどうか、鼻孔からかすかにでも息が出ているかどうかを調べました。彼は一片の木材のように微動だにしない弟子の体に幾たびも触れました。しかし、体には少しの変化もなく、通常の意識に戻る気配もありませんでした。

トーターが唱える「ハリ・オーム」という深遠なマントラが、空間を満たしました。マントラはラーマクリシュナをサマーディから呼び戻しました。トーターは彼に言いました。「あなたは、もうわたしの弟子ではない。勝れた友だ」

トータープリー
トータープリー

トータープリーの瞑想修行

トータープリーはパンジャブ州の出身でした。彼の師も有名なヨーガ修行者であり、ルディアナに僧院がありました。僧院には700人の僧侶がいて、ヴェーダーンタの真理を悟るべく、日夜、師の導きに従って修行に励んでいました。

新しい弟子たちは、はじめは柔らかいクッションの上で瞑想しました。それは堅い座に坐ることで脚が痛み、心が肉体に囚われてしまうリスクを避けるためでした。やがて瞑想が深くなると堅い座に移行し、ついには、一枚の皮か土の上に坐って瞑想するのでした。

また、弟子たちは徐々に裸のままで過ごせ

る訓練をしました。さらに恥、憎しみ、恐怖、自分の生まれや血筋、習慣や地位などに関するエゴイズムというかせを、一つ一つを放棄していきました。

僧団の長の席が空くと、パラマハンサ大覚者の境地を得た者だけが、その後継者に選ばれました。長となる人物は高額の金や財産を管理し、神と修行者への奉仕のために正しく使う責任がありました。そのため黄金への執着を微塵も持たない人が、長に任命されたのです。師の死後、僧団の長になったのがトータープリーでした。

同じ場所に三日以上いないことがトーターのスタイルでした。しかしラーマクリシュナの魅力に惹きつけられて、結局11カ月もの間、ドッキネッショルに留まることになったのです。その間トーターは、パンチャヴァティーの下で昼も夜も瞑想して過ごしつつ、頻繁にラーマクリシュナと語り合い、一緒に瞑想しました。

トーターのグループは、火を神聖視していました。ドッキネッショルでもトーターはパンチャヴァティーの下に坐り、傍らでドゥ二と呼ばれる聖火を燃やし続けました。彼は水差しと火箸だけを身近に置いていました。これらは毎日磨いて、ピカピカに光らせていました。

トーターが毎日瞑想しているのを見て、ラーマクリシュナは尋ねました。「あなたはブラフマンを悟って完全になられたのに、なぜ毎日、瞑想をなさるのですか?」

するとトーターは静かに水差しを指さし、「あなたはこれがこんなに輝いているのが見えませんか? 心もそれと同じようなものだと知りなさい。瞑想の実習によって毎日磨かれていないと、やはりけがれがたまるのです」と答えました。

ラーマクリシュナはトーターの意見を認めながらも、さらにこう尋ねました。「もし水差しが黄金でできていたら、どういうことになるでしょうか? 毎日磨かれなくても、汚れないに違いありません」

トーターは微笑んで同意して「おお、そうだ。本当にそうだ」と言いました。

後年、ラーマクリシュナは毎日瞑想することの重要性として、弟子たちにトーターの言葉を引用しました。ある弟は推察しました。「このときトーターはラーマクリシュナの心が黄金でできていることを、確信していたのではないか」と。

ラーマクリシュナがヴェーダーンタの修行をした場所(ドッキネッショル寺院)

トータープリーとラーマクリシュナ、対照的な二人

トータープリとラーマクリシュナ、二人の覚者はまことに対照的でした。トーターは体も精神も鋼のように強く、シャンカラの説くヴェーダーンタ哲学が、彼の唯一の真理でした。

ラーマクリシュナは、体は細くデリケートで、その心も繊細でした。彼自身は、カーリー女神の子供であるムードを好みました。今回の悟りもカーリー女神の計らいのおかげだと思っていたのです。

朝と夕、ラーマクリシュナは大きな声で神の栄光を讃えつつ、手をたたき、信仰のムードに駆られて踊りました。

「ハリに頼め、ハリに頼め。ハリは先生、先生はハリ。ああ、ゴーヴィンダ! わたしの活力、わたしの命! 心はクリシュナ、活力はクリシュナ、知識はクリシュナ、あなたはクリシュナ、瞑想はクリシュナ、意識はクリシュナ、知性はクリシュナ、あなたは宇宙、宇宙はあなた、わたしは機械、あなたは操縦者!」(註)ハリもゴーヴィンダもクリシュナ神のこと

たった一日でニルヴィカルパ・サマーディーに達し、ブラフマンの叡智を体得した比類なき人が、その後も毎日、バクティ・ヨーガを実践しているのです。そのことがトーターには全く理解できませんでした。ラーマクリシュナが手を打ち、称名する姿を見て、トーターは皮肉を込めて言いました。

「何をしているのかね。あなたはそんなに手をたたいて、チャパティ(イースト菌不使用のパン)でも作っているのかね!? もういいかげんに、くだらん真似はやめたらどうだ」

「何と馬鹿なことを! わたしは神の御名を唱えているのですよ。それなのにチャパティを作っているなどと言う!」とラーマクリシュナは率直に返答しました。

ラーマクリシュナはニルヴィカルパ・サマーディによってブラフマンと母なる神が一体であると大悟していたのでした。つまりブラフマンと母なる神(幻影マーヤー生みだす根源的力)シャクティとの関係は、「火」と「燃える力」のようなもの、「牛乳」と「牛乳の白さ」のようなもので、決して離れては存在し得ないことを。

クモは自らの体内から糸を出して網を張り、そこに住んでいるように、カーリー女神は宇宙を吐き出し、また吸い込んでいく。彼女がすべてのマーヤーを司り、万物を支配していることを、ラーマクリシュナは確信していたのです。

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