【苦行の権化】トゥリヤーナンダの生涯(2)ラーマクリシュナの薫陶と神への道

Ramakrishna world

【母なる神への信仰】

ハリナートは独自にアドヴァイタ・ヴェーダーンタ(不二一元論/ノンデュアリティ)の勉強を続けていました。彼はブラフマンを求めるには諸聖典を完全に理解すべきだと考えていました。そしてバガヴァッド・ギーター、ウパニシャッド、そしてシャンカラの著作などを深く学習するのでした。

そんなハリにラーマクリシュナはこう言いました。「おまえはヴェーダーンタの勉強と瞑想をしているそうだね。結構なことだ。だが、ヴェーダーンタ哲学は何を教えているのか? ブラフマンのみが実在で、その他は非実在である』というのが要旨ではないのかね? 他に何かあるのかね? それならば、なぜお前は実在しないものを捨て、ホンモノにしがみつかないのか

ヴェーダーンタの主要なテーマを、明確かつシンプルに表現した師の言葉は、ハリナートの心に刺さりました。聖典にも「ブラフマンは学習や知的理解で悟ることはできない」と繰り返されていたのです。

この日以降、ハリナートは聖典の研究よりも修行の実践に力を入れるようになりました。しかし、まだ疑問が残りました。「『ブラフマンはそれが選んだ者によって悟られる』と聖典に書かれている。それならばどれだけ激しく修行をしても、悟れるとは限らないのではないか?」

その数日後、ラーマクリシュナはコルカタのある信者の家にやってきました。彼はそこにハリナートを呼びました。ハリが来ると、ラーマクリシュナは至福の境地の中でこう述べました。

「この世界を非実在と見ることは、たやすいことではない。神の恩寵なしには、何一つ得ることはできないのだよ。単なる個人の努力ではこの悟りは得られない。ああ! 何と彼の力の小さなこと!」

ハリナートは、これらの言葉が自分に向けられていると感じました。彼は、自分の努力を強く信じ、自分の努力で悟りを得るのだと、全神経を張り詰めていたのでした。

悟りの境地に達するには、限られている人の力の及ぶところではない、これには人の力を越えた神の恩寵が必要なのだ」と、独断的になりかけていたハリの心に、師の導きが刻みつけられました。

それからラーマクリシュナは、神の恩寵を称える歌を歌い始めました。その両眼から涙が流れ落ち、床を濡らしました。

ハリもまた泣き出しました。この後ハリナートは、母なる神の信仰者に変身したのでした。

師弟の愛

ある時期のハリナートは忙しく、ドッキネッショルから足が遠のきました。久しぶりにハリが顔を見せると、ラーマクリシュナは感極まって声を詰まらせながら、こう言いました。

「なぜお前はここに来ないのか? わたしがお前に会いたがるのは、お前が神の特別のお気に入りだと知っているからだ。それ以外に、わたしがお前たちから何を期待することができるか?   

お前はわたしに1パイス(インドの通貨)のプレゼントをするお金もなければ、お前の家に行っても、わたしが座るぼろぼろのゴザさえない。それでもわたしはお前を深く愛しているのだ」

ラーマクリシュナは自分自身の胸を指さしつつ、続けました。

「必ずここに来るようにしなさい。なぜならここが、お前が全てを得る場所だから。もしよそで神を見いだせるなら、そこへ行きなさい。わたしが望むのは、お前が神を悟り、この世の苦しみを越えて、神の至福を楽しむことだ。

ともかく、今生でそれを得られるよう、努力しなさい。でもね、母なる神が、お前はここに来さえすれば、何の骨折りもしないで神を悟る、とわたしに告げるのだ。だからお前に来るよう、しつこく言うのだよ」

ハリナートがラーマクリシュナのとりこになったのは、言うまでもありません。ハリは聖典によって、人がもし霊性の修行に真剣であるなら、師が彼のもとにやってくる、ということを知っていました。彼は、師としてラーマクリシュナを得られたことを最高の祝福と感じていました。

晩年、彼が様々な病気で苦しんでいたとき、なぜこのような苦しみに耐えられるのかと聞かれ、彼は次のように答えました。「師ラーマクリシュナとの交わりで得た至福は、わたしの全生涯の苦しみをつぐなってあまりあるものだった

また、この時期ハリナートはナレンドラ(後のヴィヴェーカーナンダ)に出会いました。ナレンドラが深い霊性を備えた非凡な若者だとすぐさま見て取れました。

二人はお互いに師ラーマクリシュナを愛の権化と感じていることを知り、二人は親友となりました。ナレンドラは彼のことを「兄弟ハリ」と呼びました。 

トゥリヤーナンダ

こいつめ、わたしを見破ったな!

ハリナートは、師ラーマクリシュナが神の化身であると信じていました。それ故、師が病気になったとき、彼は師が本当に病魔に打ち負かされたのだとは思いませんでした。一切は神のお遊びだからです。

ラーマクリシュナが咽頭ガンにかかってコシポルで療養していたある日、ハリナートは師に「お加減はいかがですか?」と尋ねました。

ラーマクリシュナは答えた。「ああ、非常に苦しいよ。何も食べることができないし、耐えられないほど、喉が焼け付くようなのだ」

しかしハリナートは騙されませんでした。神の化身に幸福も不幸もないはずです。ラーマクリシュナが不平を言えば言うほど、それは師が自分の信仰を試しているのだと分かりました。

ついにハリは叫びました。「師よ、あなたが何とおっしゃっても、わたしはあなたを無限の至福の大海とお見上げいたします!

これを聞くとラーマクリシュナはほほえみ、「こいつめ、わたしを見破ったな!」とつぶやきました。

出家修行僧になる

1886年8月、師ラーマクリシュナは肉体を捨て去りました。その後、ナレンドラをはじめとする若い弟子たちはボラノゴルに僧院を創設しました。ハリナートもこれに加わり『トゥリヤーナンダ(超越意識の喜び)』と名付けられました。

トゥリヤーナンダは、出家修行僧の黄土色の衣を身にまとい、剃髪ていはつした姿で兄たちに会いに行きました。兄たちは、涙を流しながら立っている若い僧が誰なのか、はじめは全く分かりませんでした。

しばらくしてからハリナートであることに気づき尋ねました。「なぜ泣くのだ? お前はお前がなりたかった者になったのではないか!」

 「わたしはお二人にたいへんに申しわけなく思っているのです」トゥリヤーナンダは答えました。

すると兄たちは「ハリよ、いいではないか。われわれはお前に対して、兄としての義務を果たした。お前は家庭生活には入らなかった。

代わりにお前が選んだのは最善のものだ。お前が目標に達するよう、われわれはお前を祝福するよ」と言いました。

この言葉を聞いてトゥリヤーナンダは、心の重荷が下りたように感じました。

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