スカ・プールヴァカ・プラーナーヤーマ(Sukha Purvaka Pranayama)とは
スカ・プールヴァカ・プラーナーヤーマ(以下スカ・プールヴァカ)は、ヨーガの最も代表的な呼吸法、まさにエース格と言えます。
この呼吸法の特徴は、左右の鼻孔を交互に使って呼吸することにあります。その結果、現代人に多くなりがちな自律神経の乱れを整え、ストレスの緩和に効果を発揮します。
「スカ」とは「快適・快楽」を意味し、「プールヴァカ」とは「~を主とした」という意味です。つまりスカ・プールヴァカは「快適さを重視した」という意味であり、「快楽を追求する」という意味でもあります。
スカ・プールヴァカは初心者から上級者までが実践できる、非常に優れた呼吸法です。
ヨーギーたちは、鼻には2つの孔があることに着目しました。左右の鼻孔を交互に使うことで、体内の陰陽のバランスや自律神経を整えることができます。
さらに、他の呼吸法との組み合わせも容易であるがゆえに、ヨーガ呼吸法の要であると言えます。
スカ・プールヴァカのやり方
それでは、スカ・プールヴァカのやり方をご説明します。正しい坐法を取ってから、
①右親指を使って右鼻を閉じ、ゆっくりと左鼻から息を吸います。
②息を止めます(クンバカ)。
③右中指(または薬指)を使って左鼻を閉じ、右鼻からゆっくりと息を吐きます。
④そのままの手指で、右鼻から息を吸います。
⑤息を止めます(クンバカ)。
⑥右親指を使って右鼻を閉じ、左鼻から息を吐きます。
以上を1サイクルとして、3分~10分程度繰り返します。
鼻を押さえる手の使い方は、右手の人差し指(または人差し指と中指)を眉間の少し上に当て、手の平は顔に向けておきます。そして親指を鼻の右外側に、他の指を左外側に置きます。こうして左右の小鼻を交互に押さえます。
写真のように眉間に指を当てないやり方もあります。
スカ・プールヴァカに期待される効果
スカ・プールヴァカには、身体や心に多くの効果が期待されます。ここでは、その主な効果について解説します。
1.自律神経のバランスを整える
不規則な生活やストレスによって自律神経のバランスが乱れると、体の器官に様々な不調が現れます。
- 交感神経が優位な状態では、心身が活性化しますが、過剰になるとストレスや不安感が高まります。
- 副交感神経が優位な状態では、リラックスしますが、過度になると怠惰な状態になります。
スカ・プールヴァカを行うことで、交感神経と副交感神経の双方に働きかけ、自律神経のバランスを整えることができます。
2.左右の気道、イダーとピンガラーが浄化される
スカ・プールヴァカは、プラーナ(生命エネルギー)が流れる左右の主なナーディー(気道)であるイダーとピンガラーに刺激を与えることができます。
- イダーは左側の鼻孔から始まるナーディーで、月(陰)のエネルギーを表します。
- ピンガラーは右側の鼻孔から始まるナーディーで、太陽(陽)のエネルギーを表します。
スカ・プールヴァカを行うことで、イダーとピンガラーのバランスを整え、浄化することができます。
右鼻呼吸 | 左鼻呼吸 |
交感神経系を刺激する(闘争・逃走反応) | 副交感神経系を刺激する(リラックス効果) |
ピンガラ(太陽の気道)を刺激 | イダー(月の気道)を刺激 |
左脳を刺激する | 右脳を刺激する |
言語能力・論理的思考を高める | 空間能力・想像力を高める |
心拍数、血圧、体温、呼吸数の増加 | 心拍数、血圧、体温、呼吸数の減少 |
アクティブモード | 休息モード |
3.心が穏やかになり、欲望が静まる
スカ・プールヴァカの実践によって、心が穏やかになり、欲望や浮かれた気持ちが静まることがあります。心の安定をもたらす効果があります。
4.呼吸器が発達し、血液循環が活発になる
スカ・プールヴァカの継続的な実践によって、呼吸器の機能が向上し、血液循環が活発になります。これにより、血行が改善され、身体全体への酸素と栄養の供給が増加します。
5.意識が鮮明になり、集中力が増す
スカ・プールヴァカは、呼吸に集中することで意識が高まり、思考がクリアになり、集中力が向上します。日常生活や学習、仕事においてもより効率的に取り組めます。
6.イライラや不安、ストレスの解消につながる
スカ・プールヴァカの実践は、心身のリラックスや自律神経の調整を促すため、イライラや不安、ストレスの解消に効果的です。心の安定を取り戻し、心地よい状態を維持することができます。
以上が、スカ・プールヴァカに期待される効果の代表的なものです。
実践! スカ・プールヴァカ
それでは、スカ・プールヴァカの具体的な実践に入っていきましょう。
【プラクティス1:腹式呼吸での実践】
正しい坐法を取ってから、
①右親指を使って右鼻を閉じ、おなかを膨らませながらゆっくりと左鼻から息を吸います。
②息を止めます(クンバカ)。
③右中指(または薬指)を使って左鼻を閉じ、右鼻からゆっくりと息を吐きます。おなかが小さくなっていきます。最後におなかを引き締めて息をしっかりと吐き切ります。
④右鼻からおなかを使って息を吸います。
⑤息を止めます(クンバカ)。
⑥左鼻からおなかを使って息を吐きます。
これらを1サイクルとして、3分から10分程度繰り返します。
ポイント1:鼻の通りを良くしましょう
スカ・プールヴァカを行う際には、鼻の通りを良くしておくことが必要です。鼻が詰まっていると、呼吸がスムーズに行えず、効果的な呼吸法を実践することができません。
その場合は、鼻うがいや鼻をかむなどして、鼻の通りを良くするようにしましょう。鼻のつまりが軽度ならば、呼吸法を実践する過程で鼻が開通してくることもあります。軽度でない場合はこの呼吸法の実践を控えましょう。
【プラクティス2:完全呼吸法で実践】
正しい坐法を取ってから、
①右親指を使って右鼻を閉じ、左鼻から息を吸います。まずはお腹を膨らませながら息を吸い、次に胸を膨らませながら息を吸います(完全呼吸法の要領で)。
②息を止めます(クンバカ)。
③右中指(または薬指)を使って左鼻を閉じ、右鼻から息を吐きます。最後に腹部を引き締めて息をしっかりと吐き切ります。
④右鼻から同じ要領で息を吸います。
⑤息を止めます(クンバカ)。
⑥左鼻から同じ要領で息を吐きます。
これらを1サイクルとして、3分から10分程度繰り返します。
ポイント2:快適さを重視します
環境や坐法を整えてから呼吸に集中し、呼吸が心地よく感じるようにしましょう。息がスムーズに流れ、体や心に心地よい感覚が広がることを追求します。
【プラクティス3 1:4:2の呼吸法で実践】
吸う:止める:吐くの長さは自分の状態に合わせて、以下のステップから快適な長さを選びましょう。
- ステップ①:1:1:2(4秒:4秒:8秒)
- ステップ②:1:2:2(4秒:8秒:8秒)
- ステップ③:1:3:2(4秒:12秒:8秒)
- ステップ④:1:4:2(4秒:16秒:8秒)
- ステップ⑤:1:4:2(5秒:20秒:10秒)
以下ではステップ①を例とします。
正しい坐法を取ってから、
①右親指を使って右鼻を閉じ、4秒間かけて左鼻から息を吸います。
②4秒間息を止めます(クンバカ)。
③右薬指を使って左鼻を閉じ、8秒かけて右鼻から息を吐きます。
④右鼻から4秒で息を吸います。
⑤4秒間息を止めます(クンバカ)。
⑥左鼻から8秒かけて息を吐きます。
これらを1サイクルとして3分から10分程度繰り返します。
ポイント3:呼吸の長さを微調整できる能力を身につけましょう
ご自身のコンディション等に応じて、上手に呼吸の長さを微調整しましょう。ここでは主に上記から最適なステップをチョイスできることを意味します。
途中で苦しさを感じた場合は、一つ前のステップに戻りましょう。逆に物足りなさを感じた場合は、次のステップに進みます。
無理をせず、自分のペースで実践してください。また、呼吸法を継続して実践していくと、自然と息の長さが伸びてきます。
【プラクティス4:3つのバンダとの組み合わせ】
正しい坐法を取ってから、
①右親指を使って右鼻を閉じ、ゆっくりと左鼻から息を吸います。
②息を止めて(クンバカ)、あごを引き(ジャーランダラ・バンダ)、肛門を締め上げ(ムーラ・バンダ)、おなかを引き上げ(ウッディーヤーナ・バンダ)をします。
③無理のない程度に息を止めたら、3つのバンダを解いて、右中指(または薬指)を使って左鼻を閉じ、右鼻からゆっくりと息を吐きます。
④右鼻から息を吸います。
⑤息を止め(クンバカ)を行いながら、3つのバンダをかけます。
⑥左鼻から息を吐きます。
これらを1サイクルとして3分から10分程度繰り返します。
✔ここで3つのバンダの働きを簡単におさらいしましょう。
- ムーラ・バンダ:肛門を締めることによって下に漏れないように蓋をして、エネルギーを上昇させます。
- ウッディーヤーナ・バンダ:お腹を引き上げることによって内臓の位置を調整し、エネルギーの上昇を促進します。
- ジャーランダラ・バンダ:顎を引くことによって喉を締め、気が上に漏れないように蓋をします。
ポイント4:3つのバンダがゆるまないようにしましょう
クンバカ中は、3つのバンダがそれぞれゆるまないように意識しましょう(とはいってもはじめのうちは、ゆるんでしまいますが)。
ここでは吸気をしたあとの保息ですので、ウッディーヤーナ・バンダをかけてもおなかは凹まないです。内蔵や横隔膜の引き上げの緊張を保っておけばオッケーです。
呼吸法クイズ
問1:スカ・プールヴァカの主な特徴は何ですか?
A) 両手を使って呼吸すること
B) 左右の鼻孔を交互に使うこと
C) 速くて浅い呼吸
D) 長時間息を止めること
問2:スカ・プールヴァカは自律神経系にどのような影響を与えますか?
A) 交感神経を活性化させる
B) 副交感神経を活性化させる
C) 交感神経と副交感神経の両方のバランスを取る
D) 自律神経には影響を与えない
*答えは【まとめの章】最後にあります。
まとめ
スカ・プールヴァカは、ヨーギーたちの長い年月の実践と探求の中から生まれた代表的な呼吸法です。身体や心に多くの効果をもたらすだけでなく、自己観察や内省の時間を与えてくれます。
安全かつ効果的に実践するためには、正しい方法を学び、自分のコンディションに合わせて行うことが重要です。スカ・プールヴァカを通じて、自律神経のバランスを整え、心と身体の調和を取り戻しましょう。
一生お付き合いしたい素晴らしい呼吸法です。継続的な実践によって、より充実した人生を送ることができます。
【答え】問1:B) 問2:C)
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