ブッダ伝(4)初転法輪と仏教教団の始まり

仏教

初転法輪~五人の修行者の解脱

最初に教えを説かれし者は?

ゴータマ・ブッダが悟りを得てから49日が経過していました。彼は「この深遠で理解しがたい悟りを最初に誰に説こうか?」と思案しました。そのとき、ブッダはかつての瞑想の師、アーラーラ・カーラーマ仙人とウッダカ・ラーマプッタ仙人を思い出しました。

「彼らならば、この教えを速やかに理解できるだろう」と彼は考えました。しかし、二人が数日前にこの世を去ったことを知りました。

次にブッダは、かつて自分に仕えた五人の苦行者たちを探しました。ブッダは天眼を使い、ヴァラナシの郊外、サールナートにある鹿の園に住んでいる彼らを見つけました。ブッダはおよそ235キロの道のりを歩いて、彼らのもとへ向かいました。

鹿の園にいた五人、コンダンニャ、ヴァッパ、バッディヤ、マハーナーマ、アッサジは、遠くから一人の修行者が近づいてくるのを目撃しました。やがてその人がゴータマであるとわかると、彼らは申し合わせました。「ゴータマは苦行を放棄し、贅沢に走った男だ。挨拶すべきではない。出迎える必要もないぞ」

しかし、ブッダのただならざる威容と光輝く姿に彼らは完全に圧倒されました。自制心を失い、五人はブッダに走り寄り、彼の托鉢の鉢を受け取り、座を設け、飲み水と足を洗う水を用意しました。

ブッダは語りかけました。「修行者たちよ、法を聞く耳を用意しなさい。私は不死の法を獲得したのだ。その法をそなたたちに説こう。そなたたちが私の教えに従うならば、無上の清らかな修行を完成し、この現世において悟りに到達するだろう」

するとコンダンニャは、こう問い返しました。「ゴータマ! あなたは苦行をもってしても、悟りの境地を得ることはできなかった。それなのに、努力を怠り、贅沢に走りながら、どうして解脱への道を見つけることができようか?」

ブッダは威厳に満ちた口調で答えました。「私は決して、努力を怠ったわけでも、贅沢に走ったわけでもない。私は、智慧を完成し、正しく覚醒してブッダになったのだ。修行者たちよ、法を聞く耳を用意しなさい。私は不死の法を獲得したのだ。その法をそなたたちに説こう」

初転法輪~『四つの聖なる真理』と仏教教団の形成

そしてブッダは修行者たちに、『四つの聖なる真理(四諦したい)』の教えを説きました。それは以下の通りです。

1.苦しみの真理
『生老病死』は苦であり、憎い人に会うこと、愛する人との離別、欲するものが得られないこと、自己を構成する五つの集まり(色受想行識しきじゅそうぎょうしき)もすべて苦しみである

2.苦しみの原因の真理
無明こそが苦しみの生起の根本原因である。煩悩が真理を見えなくしている

3.苦しみの止滅の真理
煩悩を余すところなく滅し去ることで、苦しみは止滅する

4.苦しみの止滅に至る道の真理
聖なる八つの道、すなわち、正しい見解、正しい思惟、正しい言葉、正しい行い、正しい生活、正しい努力、正しい念、正しいサマーディを実践することで、苦しみの止滅に至る

この教えを受けて、突然コンダンニャに真理を見る法の眼が開かれました。ブッダは歓喜して叫びました。

コンダンニャは悟った! コンダンニャは悟った!

それゆえにその後の彼は『アンニャー(悟った)・コンダンニャ』として知られるようになりました。

アンニャー・コンダンニャはブッダに向かって懇願しました。「尊い御方よ、どうか私をあなたの弟子にしてください」。他の四人も合掌して切望しました。

ブッダは彼らに言いました。「来たれ、修行者たちよ。法は十分によく説かれた。正しく苦しみを滅するために、清らかな修行を行なえ」

こうして小さいながらも『仏教教団(サンガ)』が形成されました。毎日、三人の修行者が托鉢に出かけ、戻ってきたら残りの三人とともに供物を分かち合いました。不断の訓練により、ヴァッパ、バッディヤ、マハーナーマ、アッサジも悟りの境地に達しました。

大富豪の息子ヤサ~悩める青年の解脱

明け方の出会い:ヤサとブッダの運命的な邂逅

ある日の明け方、ブッダは鹿の園で歩く瞑想(経行きんひん)を行っていました。すると遠くから一人の上品で端正な青年が近づいてくるのを見ました。

青年は「ああ、実に悩ましい。ああ、実にわずらわしい」と嘆いていることがわかりました。ブッダは透徹とうてつした声をもって彼に呼びかけました。

「ここには悩みもわずらいもない。こちらに座りなさい。私が君に教えを説こう」

清々しい修行者の姿を見た青年は、ひきつけられるように黄金のサンダルを脱いでブッダの傍らに座りました。

彼の名はヤサといい、ヴァラナシの大富豪の息子でした。ヤサは季節ごとの宮殿を与えられ、日々美しい侍女たちに囲まれて快楽に耽る生活を送っていました。

しかし、夜明け前に一人目覚めたヤサが周りを見渡すと、侍女たちがここかしこに眠りを貪っていいました。髪を乱し、寝言を言い、よだれを垂らし、歯ぎしりをするなどの無様な姿でした。

彼は心の中で「まるで墓場だ。こんな生活はもう嫌だ!」と叫びました。そうして悩みに満ちたまま、彷徨い歩いていたのです。

ブッダはヤサに法を説きました。それは以下の通りです。

1.布施の重要さ
2.戒律の重要さ
3.天界に生まれることの素晴らしさ
4.煩悩のデメリットと、煩悩から解放されること(解脱)のメリット

これらの教えを段階的に説明すると、ヤサの心には健全な心、柔和な心、偏見にとらわれない心、歓喜の心、そして澄み切った心が備わってきました。そして、ブッダはさらに『四つの聖なる真理』を説きました。

その結果、ヤサの中に真理を見る汚れのない法眼が生じました。「およそ原因と条件によって生起するものは、すべて消滅する性質のものである」と彼は悟りました。

開かれる眼:ブッダの教えに心を開く人々”

朝になり、ヤサの両親は息子がどこにもいないために大騒ぎとなって、家人総出で探しました。父親は鹿の園でヤサの黄金のサンダルを見つけました。

ブッダは神通力でヤサを見えなくしておきながら、父親に同じように教えを説きました。父親は深く感激しました。

「すばらしいことです、すばらしいことです、尊い御方よ。倒れたものを起こすように、覆われたものを開くように、迷える者に道を示すように、暗闇の中に灯火をかかげるように、あなたは真理を明らかにされました。

私は『ブッダ』に帰依します。『真理の教え』に帰依します。『出家修行者の集い』に帰依します。どうか私を在家信者として受け入れてください。今日から命の終わるまで帰依きえいたします

こうしてヤサの父親は、三宝さんぽうに帰依する最初の在家信者となりました。

父親への説法は、同時にヤサにも向けられていました。ヤサは執着から離れ、煩悩から解脱しました。ブッダはこれを知り、神通力を解いて、父親の前に喜びに輝くヤサの姿を現しました。

ブッダはヤサの父親に言いました。「長者よ、ヤサはそなたと共に真理の法を聴いて、心が煩悩から解脱した。彼は再び世俗の生活に戻り、以前のように様々な快楽を楽しむことができるだろうか?」

「尊い御方よ、それはできません。ヤサに執着がなくなり、心が煩悩から解脱したということは、彼にとって喜ばしいことです。どうかヤサをあなたの弟子として従え、私の家の食事にお越しください。そして家族全員に悟りの道を説いてください」

ブッダは沈黙によって、これを承認しました。

ヤサの父親が立ち去った後、ヤサはブッダに深い敬意を表して言いました。「尊い御方よ、私はあなたのもとで出家し、戒を受けたいのです」

ブッダは応えました。「来たれ、修行者よ。法はよく説かれた。苦しみを滅するために清らかな修行を行なえ」

その後、ブッダとヤサと5人の修行者たちは、ヤサの両親の家を訪れました。そこで彼らは食事の供養を受け、ブッダはヤサの母親と妻にも同じように教えを説きました。

彼女たちは喜びに満ちた声を上げました。「なんと素晴らしいことでしょう! 私たちはブッダに帰依します。真理の教えに帰依します。出家修行者の集いに帰依します

こうしてヤサの母親と妻は、一番最初に三宝に帰依する女性の在家信者となりました。ヤサの一家は、彼らの家族生活の中で、仏道を歩むことを決めたのです。

「修行者たちよ、散れ、歩め、法を説け!」

その後、ヤサの良家の友人たちもブッダに導かれ、そのうちの54人が出家し解脱しました。こうしてこの世に、ブッダの弟子として出家し解脱した者は合わせて60人となりました。

ブッダは彼らに言いました。

修行者たちよ、歩みを進めよ。多くの人々の利益のため、多くの人々の安らぎのため、そして世間に対する慈悲のために、一人で遍歴し、教えを説け。二人として同じ道を行ってはならない。私もまたこの地を去り、ウルヴェーラーへ赴こう」

こうして、教えを広めるために、弟子たちは托鉢椀を持って、それぞれ異なる地へと旅立っていきました。彼らの旅は多くの人々の心に触れ、悟りの道へと導くことになります。ブッダの教えは、彼らを通じて、さらに広がるのでした。

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