ブッダ伝(12)ブッダ殺害計画とデーヴァダッタの最期

仏教

アジャータシャトルの即位とビンビサーラ王の死

病から回復したデーヴァダッタはアジャータサットゥ王子に近づき、こう言いました。

「父王はあなたをうとんじている。なぜならあなたが生まれる前、王家の占い師が、この子は将来父を殺す、と予言していたからだ。

そして占い師は、堕胎するか生まれたらすぐに殺すように勧めた。実は父王は何度も、あなたの命を奪おうとしたのだ」

王子はわなわなと震えました。そして「師よ、私はどうしたらいいのですか?」とすがるように尋ねました。

デーヴァダッタは答えました。「王子よ、あなたの父を殺害して、王になりなさい! そして、私はゴータマを殺害して、ブッダになる」

ビンビサーラ王が退位し、太子のアジャータシャトルに王位を譲るという布告が出されました。突然の決定に国中が驚きに包まれました。

戴冠式たいかんしきは10日後に行われ、デーヴァダッタとその弟子たちは参列しましたが、ブッダとその僧団は招待を断りました。

アジャータシャトル王は憤慨しましたが、ブッダの教団を公然と弾圧することはできませんでした。ブッダの教団に対する国民の支持は高く、近隣の王たちもブッダを敬っていたからです。

まもなくビンビサーラ王が幽閉されて餓死したという衝撃的な事実が明るみにでました。

ブッダ殺害計画

デーヴァダッタはブッダ殺害計画を企て、アジャータシャトル王を通じて刺客を密かに雇い入れました。

ある晴れた日、ブッダは静謐せいひつな森の中で経行きんひん(歩く瞑想)をしていました。この時、刺客は木陰で武器を構え、ブッダが近づくのを待ち構えていました。太陽が木々の間を照らし、風が葉をそっと揺らす中、ブッダはゆるやかに刺客の近くまで歩みを運んできました。

ブッダが接近するにつれ、刺客の心に予期せぬ変化が起こり始めました。ブッダの身体から発せられるまばゆい光と、ブッダの存在から醸し出される安らぎに触れ、彼の心は平安に満たされていったのです。

彼の手の武器は重くなり、ついにばたりと地面に落ちました。刺客は数歩進み出て、ブッダの足元にひれ伏しました。

彼は涙を流しながら自らの罪を告白し、許しを請いました。ブッダは慈悲深く彼を赦し、許しの言葉をかけました。刺客はその場でブッダへの帰依を誓いました。

デーヴァダッタは次に、自らブッダをこの世から排除することを決意しました。ブッダが鷲峰山の山麓を通る際に、山上から大岩を転がしてブッダを押しつぶそうという計画でした。

数日後、デーヴァダッタとその側近たちは計画を実行に移しました。

大岩は轟音ごうおんを立てて転がり、木々をなぎ倒しながらブッダに向かって凄まじい勢いで落ちていきました。ブッダは危険を察知し、直感的に身をかわしました。岩の破片が彼の足に当たり、出血を引き起こしましたが、ブッダは平静さを保ちながら、土煙の中に立っていました。

比丘たちがあわてて駆けつけてきました。
「世尊、ご無事で!」
「敵はどちらの方に逃げ去りましたか?」
一時辺りは騒然としました。彼らは杖を手にデーヴァダッタ一味を討とうとしていました。

ブッダは彼らを制しました。
「比丘たちよ、何を気を荒らげているのか。我らに敵などあろうはずがない。自分の外に敵を見るようなことがあってはならない。真の敵は自分の心の中にある怒りと無智だ。悪意に満ちた行動に対しては慈悲で応えなさい。

我が身を守ることよりも、我が心を正しく保つことが何よりも重要なのだ。さあ、おのおのの場所に戻り修行に励むがよい」

ブッダをお守りするために警護を申し出た弟子に対しても、「ブッダには身を守る必要がない。いかなる悪もブッダの命を奪うことはできないのだ」と答えました。

デーヴァダッタは、今度はアジャータシャトル王の乗り物である巨象ナーラーギリを利用することにしました。命を受けた象使いはこの巨大な象を激昂げきこうさせるために、大量の酒を飲ませました。酒に酔ったナーラーギリは、制御不能な状態に陥りました。

ブッダとその弟子たちが、ラージャガハの活気ある市街地を托鉢に歩いているのを見計らい、獰猛どうもうになったナーラーギリを放ちました。通りは一瞬にして大混乱に陥りました。巨象はすべてを破壊しながらブッダの方向へ突進しました。

市民たちは恐怖に震え、逃げ惑いました。侍者のアーナンダはブッダを守ろうと身を挺しましたが、ブッダは彼を止めて平然と歩みを進めました。

突然、ブッダは象王のような荘厳な声を上げました。ナーラーギリはブッダの手前でピタリと止まりました。巨象はブッダの足元に膝をつきひれ伏すように頭を地面に近づけました。ブッダは慈悲深い眼差しでナーラーギリを見つめ、頭をなでました。

こうしてデーヴァダッタのブッダ殺害計画は、ことごとく失敗に終わったのです。

デーヴァダッタの最期

その後、デーヴァダッタはアジャータシャトル王の寵愛ちょうあいを失い、弟子たちも次々と去りました。彼は重い病を患いガヤーシーサに孤立するようになりました。

死の床にあったデーヴァダッタは、最後にブッダに会いたいと望みました。弟子たちはデーヴァダッタを担架にのせて竹林精舎まで連れてきました。

ブッダが彼のもとに現われると、デーヴァダッタは全ての力をふりしぼって合掌し、弱々しい声で「ブッダに懺悔ざんげいたします」とつぶやきました。ブッダは彼に法を説きました。デーヴァダッタは救済の光を見い出し、まもなく息を引き取りました。

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