ブッダ伝(7)カピラヴァストゥへの帰還

仏教

父王シュッドーダナとブッダの再会

ブッダと300人の弟子たちはカピラ城郊外のニグローダの園で夜を過ごし、翌朝、街に入って托鉢をしました。彼らの到着を知らされたシュッドーダナ王は直ちに馬車を走らせました。

ブッダは法衣に身を包み、托鉢椀を持って、一軒の貧しい家の前に静かに立っていました。彼の姿は荘厳で光輪に囲まれており、ボロを着た女性が布施として一片の芋を差し出すと、ブッダは謹んでそれを受け取りました。

シュッドーダナ王は馬車から降りてブッダの方へ駆け寄っていきました。ブッダも父王の姿を認めると静かに歩み寄っていきました。王は息子を抱きしめようとしましたが、思いとどまり合掌しました。かつてアジタ仙人が予言したように、彼はもはや王子ではなく偉大な宗教家になったことを感じたのです。

「息子よ、どうして先に宮殿に来ないのか? 托鉢をしていようとは思ってもみなかった」と王が尋ねると、ブッダは「これは我が家系の伝統なのです」と答えました。

「釈迦族に乞食をするような者はひとりもおらぬぞ」と王が言うと、
「我が家系とは、出家者の家系を言っているのです。父上、托鉢は謙虚さと平等心を培う大切な修行なのです」とブッダは答え、父の多くの法を説きました。

すると父王に真理を観る法の眼が開かれ、肉親の情を超えた信愛の思いが生じました。「尊い御方よ、あなたに帰依いたします」と王がブッダの御足に礼拝したので、周囲もこれに従いました。

その後、ブッダと王は宮殿に入り、育ての親マハーパジャーパティー妃、妻ヤショーダラー、異母弟ナンダ、息子のラーフラたちに出迎えられました。

ブッダが「母上! ヤショーダラー!」と呼ぶと、二人は喜びに涙を流しました。

王はブッダに語りました。「ヤショーダラー妃はあなたが出家して黄衣をまとったと聞くと、自分も黄衣を着るようになったのだ。あなたが一日一食だと聞くと、彼女も一日一食にした。

あなたが大きな寝床を捨てられたと聞くと、床に布を敷いて寝るようになった。あなたが花環や香を遠ざけられたと聞くと、自分も遠ざけた。我が娘は、いつもあなたとともにあったのだ」。

ブッダは慈愛に満ちた眼差しで、皆に長い求道の道のりを話して聞かせました。皆は一心に聞き入っていました。竹林精舎の話に至ると、王はニグローダの園に同様の精舎を作ることを心に決めました。王はブッダに「ここに長く留まり真理を説いてほしい」と願い出ました。そして、


「私もマガダ国王がしたように、あなたと弟子たちを宴に招きたい。王侯貴族、宮中の要人を招いて、あなたの教えを聞かせたいのだ」と招待すると、ブッダは微笑んで承諾し、園に戻っていきました。

仏教の五戒の教え

シッダールタ王子の帰還の知らせは、カピラヴァストゥ全域に瞬時に広がりました。毎朝、托鉢に出るブッダと平和な出家僧の姿は人々の間でよく知られ、尊敬されました。人々はこぞって布施をし、教えを求めて集まりました。

祝宴の日、街は華やかな装飾で一層活気に満ち、民衆はシッダールタ王子の成道を盛大に祝いました。シュッドーダナ王はブッダと僧団、多数の来賓を宮中の中庭に招き、ブッダには自ら食事を給仕しました。

出家僧と来賓が滞りなく食事を終えると、王は合掌してブッダに会衆への説法を求めました。

ブッダは少しの沈黙の後、7年間の求道について簡潔に語り始めました。供儀や祈祷では解脱には至らないとし、『四つの聖なる真理』を説きました。そして戒律を守り、集中力を高め、智慧を育むことが解脱への道であると述べました。そして平和と幸福をもたらすための五戒を説き聞かせました。

「第一戒は『不殺生ふせっしょう』。この戒律はすべての生きとし生けるものを尊重し、意図的な殺生を避け、慈悲の心を育むことを目的とします。

第二戒は『不偸盗ふちゅうとう』。これは他者の財産や権利を尊重し、盗みや不正をせず、正直に生きることを求めます。これにより信頼と調和のある社会が築かれ、心の平穏が保たれます。

第三戒は『不邪淫ふじゃいん』。不適切な性行為を避け、身体的、精神的な純潔を保ち、個人の尊厳と健全な人間関係を促し、愛と敬意のある絆を育みます。

第四戒は『不妄語ふもうご』。これは真実を語り、欺瞞や虚偽を避け、誠実さと信頼を促進します。

第五戒は『不飲酒』ふおんじゅ。酒やその他の意識を曇らせる物質を避け、明晰な心と自己制御を保ち、誤った行動を防ぎます。

これら五戒を守れば、国民の信頼と尊敬は増し、国の平和と幸福が保証され、王国は大いに繁栄するでしょう」とブッダは語りました。

シュッドーダナ王は歓喜して立ち上がり、ブッダの前に深く頭を垂れました。一同はブッダの説法に深く心を動かされ、出家を願い出る者たちが続々と集まってきました。

息子ラーフラの出家

数日後、托鉢するブッダの姿を目にしたヤショーダラー妃は息子ラーフラに、彼が相続するべき家族の財産を父親から受け取るようと促しました。ブッダと対面したラーフラは例えようのない安らぎを感じて、父のそばを離れられなくなり、ブッダがニグローダ園に戻る際についていってしまいました。

ラーフラの物質的な財産の求めに応じる代わりに、ブッダは彼に精神的な財産を与えることを決めました。何とその場で9歳のラーフラを出家させたのです。ラーフラが髪を剃り出家の衣を纏っているという知らせを受けたシュッドーダナ王は深く苦悩しました。

愛する孫ラーフラの状況を受け入れつつも、王は今後は親の許可なく子供を出家させないように要請し、ブッダはこれを受け入れました。

その後、ラーフラはサーリプッタの下で学び、修行を重ねました。彼は戒律を厳守し成道を達成し、ブッダの十大弟子の一人として称えられるようになります。

奴隷階級ウパーリへの礼拝:ブッダの平等の教え

ブッダは数ヶ月の間、釈迦国に留まり、その間に出家した若者は五百人に膨らみました。ブッダは再訪を約束してマガダ国に旅立ちました。

この時、王族の六人の若者アヌルッダ、バグ、キンビラ、バッディヤ、デーヴァダッタ、アーナンダがブッダの後を追っていました。国境に近づいた彼らは、自身の宝石と飾り物を手放し、偶然出会った床屋の若者ウパーリに与えました。

富がもたらす不幸に気づいたウパーリは、自分も出家しようと、お宝を投げ捨てあわてて王族の若者たちを追いかけました。

翌日、七人はブッダに出家を願い出ました。ブッダはこれに応じ、最初にウパーリに授戒しました。ブッダは王族の若者たちに、出家の序列に従い、先に出家した者を兄弟子として敬うように指示しました。これにより、彼らは奴隷階級出身のウパーリを礼拝しました。ブッダは「傲慢さや差別意識をよくぞ打ち破った」と讃嘆しました。

その後、ウパーリはブッダの十大弟子の一人となりました。戒律に最も精通していることから『持律第一』と称せられ、ブッダ入滅後の第一結集では戒律編纂の中心を担うことになります。

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