ブッダ伝(3)悟りの瞬間とブッダの誕生

仏教

降魔成道~悪魔たちの妨害と智慧の勝利

ゴータマの決意に気づいた悪魔ナムチは、三人の娘を派遣し、彼を妨害しようとしました。三人はタンハー、アラティ、ラーガーといい、順に渇望、怒り、欲望を意味しています。

女悪魔たちは美しくも淫らな姿勢でゴータマを取り囲みました。そしてゴータマの耳元で口々に甘い言葉をささやきました。しかし、どんなに誘惑を試みても、ゴータマの心にはわずかな変化も現われませんでした。

次に、悪魔は大軍勢を召喚しました。それは天地を埋め尽くし、大地が裂けるような音を立ててゴータマを襲いました。悪魔たちは山々を粉砕する嵐を引き起こし、大洪水を巻き起こしました。

しかし、ゴータマの衣は微動だにせず、濡れることもありませんでした。悪魔の矢の雨や岩石の雨の攻撃も、ゴータマに届くことなく、天の花に変化してしまいました。

ゴータマは言いました。「私の心はどんな煩悩にも動かされない。ナムチよ、私はお前の軍勢を智慧によって打ち破る!」

これを聞いた悪魔ナムチは、「わたしは七年間もゴータマにつきまとったが、ついに付け込む隙を見つけることができなかった」と言って、消え去り、悪魔の軍は四方八方へと逃げ出しました。

輪廻転生の秘密を悟り、解脱する

ゴータマはそのまま深い瞑想に入りました。熟考と微細な思考を行い、遠離から生じた喜楽に満ちた第一禅定に達しました。

次に、思考が終息し、心が浄化され、サマーディによって生じる喜楽に満ちた第二禅定に達しました。

次に、喜びに染まらないがゆえに平静であり、正念と正智があり、楽に満ちた第三禅定に達しました。

次に、完全に苦楽を超え、心の平静さから生じた最も清浄な第四禅定に達しました。

こうして、心が正しく定まり、浄化され、煩悩から解放され、柔和となり、不動に達した時、夜の初めの頃において、ゴータマは自分がはるかな過去からさまざまな世界に何度も生まれては死に、生まれては死ぬ無数の過去生を観ました。そして、次にどのように生まれ変わったかを全て思い出しました。こうして、ゴータマは宿命通しゅくみょうつうを得ました。


そして真夜中において、ゴータマは清浄で様々なものを見通す天眼によって、生命ある者たちが、どのような行為によってどのような果報を受け、どのように死に、どのように来世に生まれ変わるかを観ました。こうしてゴータマは死生智ししょうちを得ました。


そして明け方近くなってゴータマは、苦しみと苦の生起、苦の滅尽めつじん、苦の滅尽に赴く道を、如実にょじつに知りました。貪欲、怒り、傲慢、疑惑、嫉妬、恐怖、これらいかなる苦しみも、すべてが真理を知らないこと、根本的な煩悩である無明にその根を持っていました。


ゴータマは煩悩と煩悩の生起、煩悩の滅尽、煩悩の滅尽に赴く道を、如実に知りました。こうしてゴータマを閉じ込めていた輪廻という牢獄から出る扉が開かれました。ゴータマは解脱げだつしました。

 

十二縁起の法~無明を滅ぼし苦しみが終わる

それから、ゴータマは、苦しみの根本原因と、苦しみが生じるプロセスである『十二縁起の法じゅうにえんぎのほう』を深く思索しました。すなわち、以下のような十二の段階で苦しみが生じていることを悟ったのです。

無明むみょう(真実を認識できない無知)→

ぎょう(経験から生ずる情報の蓄積)→

しき(これはこうである、あれはああであると識別すること)→

名色みょうしき(自我意識)→

六処ろくしょ(心の感官)→

そく(他との接触)→

じゅ(苦楽の感覚)→

あい(欲望と嫌悪の感情)→

しゅ(執着)→

(存在)→

しょう(生まれること、生きること)→

老死ろうし(苦しみ)

すべてのものごとには原因があり、その結果は次の結果の原因となり、連鎖のようにつながっていきます。

しかし、無明を完全に滅ぼすと、行も停止します。

行が停止すれば、識別も止まります。

識別が止まると、名色も終焉します。

名色が終焉すると、六処も終わります。

六処が終わると、触も止まります。

触が止まると、受も終わります。

受が終わると、愛も消え去ります。

愛が消えると、執もなくなります。

執がなくなると、有も終了します。

有が終了すると、生も終わります。

生が終わると、老いと死、悲しみ、憂慮、悩みも消え去ります。

こうしてすべての苦しみが終わることをゴータマは悟りました。彼は無明を完全に滅ぼし、「生老病死」を超越した究極のやすらぎの境地であるニルヴァーナに達しました。欲望から解放され、怒りから解放され、迷いから解放されました。ゴータマの目は開かれ、理解が生まれ、叡智が生まれ、光が輝きました。

これがブッダ(目覚めた人)の誕生でした。

梵天勧請ぼんてんかんじょう~「不死の甘露の門は開かれた」

ゴータマ・ブッダは、蓮華座で座り続け、七日間の間、悟りの至福を楽しみました。そして、七日後、ブッダはサマーディから立ち上がり、アジャパーラ樹の下に座りました。このように、七日ごとに樹木を変えながら、瞑想にふけるブッダの心に、ある考えが湧き起こりました。

私の悟りは非常に深遠で難解であり、思考を超えている。欲望にとらわれた人々には理解できないだろう。だから私が真理の教えを説いても無駄ではないか。自分以外に悟りの境地を楽しむことはできないのではないか」

ブッダの心を知った梵天(ブラフマー神)は、こう思いました。
「ああ、この世界は滅びる。ああ、この世界は滅びる」

梵天はブッダの前に現われ、合掌礼拝して言いました。
「尊い方、どうか真理の教えを説いてください。この世界には汚れの少ない人々がいます。彼らが教えを聞けば、真理を理解するでしょう。智慧の目で苦しむ人々を見て、法を説いてください」

このように言われて、ブッダは梵天に、自分の考えを述べました。梵天は二度、三度と同じ懇願を続けました。ブッダは、衆生への慈悲の心から、天眼を通じて世界を観察しました。そして、世界にはさまざまな人々がいて、真理の法によって悟り得る人がいることを知りました。

そこでブッダは梵天に言いました。
耳ある者たちに、不死の甘露の門は開かれた。己の誤った信仰を捨てよ。ブラフマーよ、人々を害するであろうかと思って、私は微妙で巧妙な法を人々に説かなかったのだ」

梵天は「私はブッダが法を説く機会を作ることができた」と喜び、ブッダを礼拝し、右回りの礼をして姿を消しました。


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