ラーマクリシュナは至高者の化身である
翌週、二人はラーマクリシュナを再び訪ねました。ナーグを見るなり、ラーマクリシュナはバーヴァ・サマーディの状態に入り、こう言いました。
「喜ばしいことだ、わが子よ! あなたの霊的な進歩については、何一つ恐れることはない。あなたはすでに、非常に高い境地に到達している」
ラーマクリシュナはナーグにタバコを用意するように命じました。ナーグがタバコを取りに行っている間に、ラーマクリシュナはスレシュに「彼は本当に燃え上がる炎だ!」と述べました。
ラーマクリシュナは彼に、タオル、スパイス袋を、そして水差しに水を入れてくるようにと、次々と命じました。ナーグは師に仕える喜びを味わいながら、最初の訪問で師の御足に触れられなかった悲しみを感じていました。
さらに後日、ナーグがラーマクリシュナのもとを訪ねると、師は言いました。「さて、あなたは医者だ。わたしの足を診察してもらえないか?」
ナーグはラーマクリシュナの足に触れてよく調べましたが、特に問題がないと答えました。師は、もっとよく調べるように頼みました。そこでナーグはさらに真剣にラーマクリシュナの足に触れて調べました。
こうしているうちに、ナーグはラーマクリシュナの愛に気づきました。最初の訪問の時の悲しみは癒されました。ナーグへの恩寵は、足の診察という理由にかこつけたさりげないものでした。
ナーグの頬を涙が伝わりました。ナーグは待ち望んでいた師の御足を、自分の頭と心臓の上に置いたのでした。ナーグはその瞬間、ラーマクリシュナが、人間の姿をした至高者そのものであることを確信しました。
この件について、後にナーグは、こう言いました。「聖ラーマクリシュナを初めて訪問してから数日後、聖ラーマクリシュナが、至高者の化身であることを知りました。師が、ドッキネッショルにおいて内緒でリーラー(神の遊戯)を行なっていたということを、師の恩寵を通して知ることができたのです。
誰も、師の祝福なしで、師を理解することはできません。たとえ一千年にわたる厳格な苦行を行なっても、師が慈悲をお示しにならなければ、師を悟ることは不可能でしょう」
ナーグのサマーディ体験
ナーグはドッキネッショルに通うようになりました。ある日、ナーグがラーマクリシュナを訪ねると、師は食後の休息をとっているところでした。非常に蒸し暑い日でした。師は、ナーグに団扇であおぐように言い、そのまま眠りに入りました。
ナーグは長時間あおぎ続け、手が疲れきってしまいました。しかし師の許可なしに止めるわけにはいきませんでした。さらにあおぎ続けました。手が非常に重くなり、もはや団扇を持つことすらできなくなくなったとき、ラーマクリシュナがパッとナーグの手をつかみ、団扇を取りました。
この件について、後にナーグはこう言いました。「師の睡眠は普通の人々と違っていました。師は常に目覚めたままでいることができました。神を除けば、いかなる求道者や成就者であっても、この状態に達することは不可能です」
あるときラーマクリシュナはナーグに、自分のことをどう思うかと尋ねました。ナーグは答えました。「あなたの恩寵によって、わたしはあなたが神であることを知りました」
これを聞くとラーマクリシュナはサマーディに入り、自分の右足をナーグの胸の上に乗せました。するとその瞬間、ナーグは驚くべき光景を目にしました。彼は、生物であれ無生物であれ、そのすべてに浸透し、天地にあふれる神の光を見たのでした。
ナーグ、医者の道具を投げ捨てる
ある日、ラーマークリシュナは信者の一人にこう語っていました。「医者、弁護士とブローカーが、宗教的な真実を理解することは非常に難しい」。師は特に医者について「ごく小さな一粒の薬に執着する心が、どうして偉大な存在を理解できようか」と語りました。ナーグは偶然これを耳にしました。
この言葉はその信者個人へのアドバイスだったのかもしれません。しかしナーグにとって、ラーマクリシュナの言葉は、どんなことでも絶対的真実でした。彼は家に帰ると、ただちに彼の薬箱と医学書をガンジス河に投げ捨てました。
ナーグが医者を辞めたことを知った父ディンダヤルは、彼自身が長年勤めたパル商店に、息子の雇用を頼みました。商店でのナーグの仕事は多くなかったため、ラーマクリシュナを訪問する機会が増え、さらに瞑想の時間も十分に取れるようになりました。
ラーマクリシュナのもとに通ううちに、ナーグの現世放棄の精神はますます燃え上がり、ついに出家修行者になることを決心しました。彼は師の許可を得るために、ドッキネッショルを訪ねました。
家住者としてとどまりなさい
ラーマクリシュナの部屋に入ると、師はナーグがまだ何も言わないうちに、バーヴァ・サマーディの状態でこう言いました。
「家住者としてとどまることに何の害があろうか。ただ心を神に固定しておきなさい。家住者の生活は、要塞の中から戦うようなものだ。お前の生活は、家住者にとって真の理想となるだろう」
ナーグは驚きました。自分に現世放棄の心を燃え上がらせた張本人が、家にとどまれと言うのです。しかし師ラーマクリシュナの言葉はすべて絶対的真実であるのでナーグに背くことはできませんでした。
ナーグの現世的な価値観は、跡形もなく消え去っていました。彼はもはやわずかな仕事もできなくなりました。ナーグと親交のあったラオジットが代理を務めました。ラオジットは貧しいけれど、正直者でした。
年老いた父はナーグに不満を述べました。「お前は家族のために何一つ稼いでこない。お前は医者を辞めた。いったいどのようにして飢えをしのぐつもりなのだ」
ナーグは答えました。「あなたは何も心配することはありません。何か起きるとしても、全ては主がなさっているのです」
父ディヤンダルは「おお、そうだろうとも! お前は裸でさまよって、カエルでも食うがよい」と言い放ちました。
ナーグは黙って腰布を投げ捨て裸になると、庭に横たわっていたカエルの死骸を持って帰り、父の前で食べはじめました。
「さて、わたしはあなたの言いつけを二つとも守りました。もう決して家のお金について悩まないでください。あなたは主の御名とともに祈りを捧げて下さい。お父さん、お願いですから、老年になってまで世俗的な事柄で思い悩まないでください」
ナーグは、父親にさまざまな宗教書を読み聞かせました。また、くだらない噂話をする人々に、「父にそのような世俗的な話をしないでほしい、さもなければ家に来ないでほしい」と言いました。
ラーマクリシュナとの問答
ナーグの心に残っている出家の願望に気づいたラーマクリシュナは、彼に再び教え諭しました。
師「お前は家住者として家にとどまり続けなさい。家族は何とかして最低限の生活費は得るであろう。お前はその心配をしなくてもよいであろう」
ナーグ「どのようにすれば、人は家庭にとどまることができますか? どのようにすれば、揉め事の中にいても、心を動かさないでいられますか?」
師「たとえお前が家住者にとどまるとしても、何一つとしてお前を傷つけることはできない。人々はお前の生き様を見て驚くだろう」
ナーグ「わたしは家住者としての生活を、日々どのように過ごせばよいのでしょうか?」
師「お前は何もしなくてもよい。ただ常に信心深い人と一緒にいなさい」
ナーグ「わたしのような無智な者が、どうすれば信心深い人を見分けることができるのでしょうか?」
師「いや、お前は彼らを探さなくてもよい。お前は家にいなさい。信心深い人々から、お前のもとにやってくるであろう」。
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