肉体から心を引き離す
トゥリヤーナンダの健康は一層衰え、寝たきりになってしまいました。1921年、彼は背中全体にできた腫瘍を取り除く大手術を受けました。
このとき彼は麻酔をかけることを拒否しました。周囲の人々は手術中の彼の平然とした表情を見て驚愕しました。
翌日、担当医が術後の背中を診に来ました。すると腫瘍が少しだけ残っていることが分かりました。
ドクターはこの方なら平気だろうと、何も言わずに鋭利なハサミで肉を挟みました。その瞬間トゥリヤーナンダは痛みで叫び声を上げました。
トゥリヤーナンダは、後でこのことについて尋ねられました。彼は「手術の日はあらかじめ肉体から心を引き離していたのだ」と説明しました。
彼は意志の力によって真我に精神集中して、肉体から意識を外すことができたのです。これはまさに長年の苦行の賜物でした。
しかし、翌日には、ふいにハサミを入れられたので、トゥリヤーナンダには集中する暇がなく、痛みに叫んだというわけでした。
この世を去ると宣言する
1922年4月、ブラフマーナンダが亡くなりました。その少し前に兄弟弟子のアドブターナンダとホーリーマザーがこの世を去っていました。ラーマクリシュナの直弟子たちは去りつつありました。
ある日トゥリヤーナンダは言いました。「わたしもまもなくこの世を去るだろう。三カ月以内だ。ぐずぐずしていて何になろう」。彼の言ったことは本当でした。彼はきっちり三か月後に肉体を捨てたのでした。
7月20日、トゥリヤーナンダは侍者たちに繰り返し「明日が最期の日だ」と言いました。しかしいくぶん容態が安定しており、彼の意識も明瞭であったため、誰もその言葉の意味を理解できませんでした。
トゥリヤーナンダ、最期の日
翌日、7月21日がトゥリヤーナンダ最期の日でした。 「我らは母のもの、そして母は我らのものなり」トゥリヤーナンダはこの言葉を繰り返し唱えました。そして午前と午後には、彼のルーティン通り母なる神に礼拝をしました。
しばらくして彼はつぶやきました。「ひどい痛みだ。主の思し召しをして成らしめよ。彼の思し召しがなされつつあるのだ。人々には理解できない」
トゥリヤーナンダは「一人にしてくれ。そうしたら私は自由になれる」と言いました。侍者たちは「あなたは全てに自由でいらっしゃる」と答えました。すると彼は言いました。「もしそうならわたしは行こう。もしそうならわたしは去るよ」
この日、トゥリヤーナンダは何も食べませんでした。彼は見舞いに来ていたアカンダーナンダを見つめて言いました。「いったいこれは何だ? これを取ってくれ」
体に巻かれていた大きな包帯が切り取られました。彼は非常に気持ち良さげでした。のちほど、新しい包帯が巻かれました。
夕方、トゥリヤーナンダはアメリカ人の弟子たち、特に彼と縁の深いグルダースを呼び、英語で談話しました。
アカンダーナンダは心配して「少し眠ってくれ」とトゥリヤーナンダに頼みました。「そうだ、わたしも眠りたいのだ」と彼は英語で答えました。
少したつと、トゥリヤーナンダは侍者に「わたしを坐らせてくれないか」と頼みました。 「師よ、それはお体に障ります」と侍者は答えました。
彼はイライラしました。「それはお前の間違いだ」と厳しく言い、別の侍者に命じました。
トゥリヤーナンダは、 かかえ上げられ坐法を取りました。 しかし、 衰弱していたため頭が落ちて姿勢を保つことができませんでした。彼は「力をくれることはできないのか! 力をくれることはできないのか!」 と叫びました。
トゥリヤーナンダは母の名を二回呼び、 呼吸困難が始まりました。 そして視線が眉間の一点に集中しました。侍者は反対をおして、彼を横にしました。
数分後、トゥリヤーナンダは「主よ、主よ」とつぶやきました。「兄弟!」とアカンダーナンダが呼びかけました。
ふたたび彼は「 まあ、君たちはわたしを坐らせてはくれないのだね! わたしを起こしてくれ!」 と叫びました。トゥリヤーナンダは一人の苦行者として、最後は瞑想の坐法のままで肉体を去りたかったのです。
「なんと君たちは分からず屋なのだろう」 彼は言いました。「肉体が脱落しつつある。プラーナ(生命力)が肉体を去りつつある。 脚をまっすぐにしてくれ」。それができると「 両手をあげてくれ。 もっと高く! もっと高く!」と言いました。
彼は合掌しました。「ラーマクリシュナに勝利あれ! ラーマクリシュナに勝利あれ!」師に敬礼しました。
そして突然全てに偏在するブラフマンに気づいたように話し始めました。
「ブラフマンは実在である。 この世界は実在である。 この世界はブラフマンである。 全てのものは実在である。プラーナは真理に根ざしている」
さらに続けました。「ラーマクリシュナに勝利あれ! 彼は真理の権化である、と言いたまえ! 智慧の権化である、と言いたまえ!」
アカンダーナンダはウパニシャッドの一節を朗唱しました。「 ブラフマンは真理であり、 智慧であり、無限である」
この言葉はトゥリヤーナンダを喜ばせました。 歓喜の面持ちで彼は叫びました。
「そうだ、そうだ! どうかもう一度くり返したまえ」トゥリヤーナンダは始めの一回は声を合わせ、それから沈黙に入りました。
突如、彼の心はブラフマンに集中して、マハーサマーディ(聖者の死)に入りました。 午後6時45分。顔には少しの苦しみの跡もなく、比類のない光輝と甘美な表情が現われていました。トゥリヤーナンダ、亨年59歳でした。
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