ナーグ・マハーシャヤの生涯(6)ホーリーマザーの恩寵とヴィヴェーカーナンダとの対話

Ramakrishna world

信仰者たち、集う

かつてラーマクリシュナは、出家を望むナーグに対して「お前は家にいなさい。信心深い人々のほうから、お前のもとにやってくるであろう」と指示しました。

花が咲くと自然とミツバチが集まるように、聖者ナーグ・マハーシャヤの名は広く知れ渡り、インド中から彼のもとに多くの信仰者が集まりはじめました。

ナーグとその妻、そして父のディンダヤルは、喜んで神の信仰者たちに尽くしました。他者へのもてなし、これがナーグのミッションでした。ナーグは全ての人々の中に神を見ており、全力で奉仕したのです。

ある日のことでした。ナーグは鋭い腹痛に襲われました。その痛みはとても激しく、ナーグは何度も失神しました。

そのとき、約10人の信仰者がやってきました。しかし家には一粒の米もなかったため、彼は市場に出かけました。米を抱えて帰宅する途中で、ナーグは激しい腹痛に耐えきれずに道端に倒れました。

ナーグは自分の病気には無頓着でしたが、もてなしができないことを嘆きました。「おお、主よ、わたしは何と呪われた運命にあることでしょう! なぜこのような病が起こったのでしょう! 

至高者たちが訪れてくださっているのに。ああ、彼らへの食事の供養が遅れてしまう! この肉と骨の檻は本当にみじめなものだ。この肉体が、わたしが主に仕える邪魔をする」

しばらくして痛みが少し治まると、ナーグは米を担いで家に帰りました。彼は訪問者の前で深々とお辞儀をすると、給仕が遅れたことをお詫びしました。

嵐の夜に、二人の信仰者の訪問がありました。ナーグの家の四部屋のうち三つは、雨風をしのげないほど崩れかかっていました。わらぶき屋根からは絶えず雨水がもれていました。ただ一つのまともな部屋が、ナーグと妻シャラトカーミニーの寝室として使われていました。

ナーグは妻を呼んで言いました。「いいかい、主の思し召しによって、われわれは素晴らしい幸運にあずかっている! さて、われわれは今晩、至高者たちのために多少の不便を忍ぼうではないか」

こうしてナーグと妻は、信仰者のために寝室を与え、自分たちは玄関で祈りと瞑想をして夜を過ごしました。

ナーグ、多額の借金を抱える

ナーグは訪問者たちに茶菓子や食事でもてなすだけでなく、ときには宿泊費や旅費さえも負担していました。前述のようにナーグは一切の仕事から離れており、ランジットからの送金だけが唯一の収入源でした。

しかしもてなしによる際限のない出費によって、ナーグは多くの借金を背負うことになりました。それを知ったヴィヴェーカーナンダがナーグの借金の肩代わりを申し出ました。ナーグは「あなた方出家修行者たちが、わたしに与えてくださる祝福だけで十分です」と穏やかに断りました。

また、借金を心配する友人や信者たちに、ナーグは言いました。「決して心配しないでください。確かに何も得るものがなければ餓死するかもしれません。

それでも、わたしは使命を放棄できません。お願いですから、このようなくだらないことで悩まないでください。聖ラーマクリシュナの思し召すままに!」

ナーグの家に職人がやってきた

ナーグは他者を使うことは一切しませんでした。全てを至高者の現われと見るナーグは、自分のために他者が働くことに耐えられなかったのです。そのため、ナーグの妻シャラトカーミニーは家の修繕が必要な時は、ナーグの留守を見計らって業者に頼んでいました。

しかしある時期、ナーグがほとんど家を空けなかったため、雨漏りで全ての部屋がほぼ使用不能になりました。ついに妻は限界を感じ、屋根の修理のために職人を呼びました。

職人が家にやってきたとき、まるで極悪なことが行なわれるかのように、ナーグは悲鳴をあげました。職人が屋根に上り、炎天下の中で仕事を始めると、ナーグは、仕事を止めて降りてくるよう懇願しました。しかし職人が構わずに仕事を続けていると、ナーグはとうとう耐えきれなくなりました。

「おお、主よ、なぜ汝はわたしに、このみじめな家住者の生活を送ることを命じたのですか? ああ、わたしの快適のために働いている人! わたしがこのような光景を見なければならないとは! 何という家住者の生活だろう!」

そう言ってナーグは、自分の額と胸を打ち始めました。ナーグが苦しむ様子を見て、職人は仕事を止めざるを得ませんでした。ナーグは職人に日給を与えると、そのまま家に帰らせたのでした。

ラーマクリシュナの高弟たちとナーグ

ナーグは毎年、女神のための祭具を購入するためにカルカッタに上京していました。

ある日、ラーマクリシュナの高弟たちが様々な話題について語り合っていたところに、ナーグがやってきました。それからは師ラーマクリシュナの話題になりました。

ナーグが帰宅しようとしたとき、ブラフマーナンダが語りました。「ナーグ・マハーシャヤがここに入ってきた瞬間、師のことが自然に思い出され、他のすべての話題は落ちてしまったのだ。

霊性が今なおインドに現存しているのは、彼のような偉大なる魂たちが存在しているからである。ナーグ・マハーシャヤに、真の栄光あれ!」

ナーグの方も、ラーマクリシュナの高弟たちに、最も高い尊敬を抱いていました。ナーグは彼らについて、こう語っていました。

「彼らは人間ではありません。主との遊戯のために、人間の姿をとった神々なのです。誰が彼らを知ることができるでしょうか」

ホーリーマザーの恩寵

ホーリーマザーは当時、ガンジス河岸辺のガーデンハウスで暮らしていました。ナーグはマザーにお目にかかりたいと思いました。彼はマザーのためにシロップ漬けのフルーツと一枚の赤い縁取りの着物を購入しました。

出発するとき、ナーグは子供のように「お母さん! お母さん!」と叫んでいました。ナーグはボートから上陸するやいなや、感極まり、強風にあおられたポプラの葉のように震え始めました。

そこに居合わせた高弟プレーマーナンダは、恍惚状態に入り始めていたナーグの体を介抱しました。そしてホーリーマザーの面前にゆっくりと導きました。

その頃のマザーは男性信者と直接会うことはありませんでした。しかしナーグ・マハーシャヤの信仰に深く心を動かされ、対面しました。

半時間ほどしてから、ナーグはマザーの部屋から出てきました。ナーグはまだ通常の意識状態には戻っていませんでした。プレーマーナンダは言いました。

「ああ、今日ホーリーマザーは、ナーグ・マハーシャヤに何と素晴らしい恩恵を与えたのだろう! 彼女はナーグ・マハーシャヤが持参したお菓子を召し上がり、御自らの手で、彼にプラサードを与えたのだから」

ヴィヴェーカーナンダと会う

「今日は、聖ラーマクリシュナの偉大な信者が来ている。ナーグ・マハーシャヤの僧院への訪問を祝って、祝日としよう」とヴィヴェーカーナンダが呼びかけると、出家僧たちは聖典のクラスの本を閉じて、ナーグの周りを囲んで座りました。

「分かるか?ナーグ・マハーシャヤを見てみろ。彼は在家であるのに、世俗の生活のことは何も知らない。常に、神の意識に没入しながら生きているのだ」

ヴィヴェーカーナンダはナーグに「どうかわれわれに、聖ラーマクリシュナについて、お話をいただけませんか」と頼みました。

ナーグは恭しく答えました。「何をおっしゃいますか? わたしに何が言えましょうか? 英雄であり、聖ラーマクリシュナの神のお遊びをサポートするあなたに、わたしは会いに参ったのです。すぐに、人々は師のメッセージと教えを受け入れるでしょう。ラーマクリシュナに栄光あれ!」

ヴィヴェーカーナンダ「聖ラーマクリシュナを本当の意味で認め、理解しているのはあなたです。われわれはただ、無駄な放浪に人生を費やしてきただけです」

ナーグ「あなたは聖ラーマクリシュナの化身ではありませんか。あなた方はコインの表と裏です。『目を持つ人』だけが『見る』ことができるのです」

ヴィヴェーカーナンダは、ラーマクリシュナ・ミッションの創設や、僧院やセンターの建設が正しいことであったかをナーグに尋ねました。

ナーグは答えました。「全ては、主の意志によって達成されるのです。これらは世界とそこに暮らす人々の善のためなのです。

わたしの確信は、あなたが行うことはすべて、世界に幸福をもたらすということです。あなたは健康に気をつけなければなりません。あなたの肉体の存続は、世界に最大の善をもたらすでしょう」

ヴィヴェーカーナンダは出家僧たちに向かって語りました。「ナーグ・マハーシャヤに会えば、人は主の恩寵によって霊性の高い境地に到達できることが理解できよう。自己コントロールにおいて、放棄において、彼はわれわれをはるかに凌駕している」

別れの時、ひれ伏すナーグを抱え起こし、ヴィヴェーカーナンダはこう言いました。「どうかときどきは訪ねてきて、あなたの聖なる存在で、われわれを祝福してください」

ギリシュの言葉と毛布

ギリシュ・チャンドラ・ゴーシュは、持ち前のユーモアでよくこう語っていました。

「マハーマーヤー(宇宙を創り出す偉大なる幻影)は、ナレン(ヴィヴェーカーナンダ)とナーグ・マハーシャヤの二人を罠で捕らえようとして、非常に困ってしまった。

彼女がナレンをとらえようとすると、彼はどんどん大きくなり、ついには彼女のすべてのかせでは間に合わなくなってしまい、この無駄な仕事をあきらめなければならなかった。

そこで彼女はナーグ・マハーシャヤを引っかけようとしたが、彼はどんどん小さくなり、極微にまでなったので、罠の網の目を容易にすり抜けて逃げてしまったのである」

ナーグは暖かい衣類を一切持っていませんでした。彼が冬の寒さに苦しんでいることを知ったギリシュは、知人に頼んでナーグに毛布を届けさせました。

ナーグは、それが尊敬するギリシュからのプレゼントだと知り、深々と何度もお辞儀をしてから、その毛布を敬意を込めて頭の上に乗せました。

ギリシュは、ナーグが他者からの奉仕や贈り物を嫌がる人だと知っていたので、ナーグが毛布を受け取ったと聞いて安堵しました。

しかし数日後、毛布が本来の目的には使われずに、ナーグの頭上に乗せられたままである、という噂を聞きました。ギリシュは真相を確かめるために、再び知人を送りました。確かにナーグは毛布をずっと頭の上に乗せ続けていました。

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