ブッダ伝(6)サーリプッタとモッガラーナ:二大弟子の解脱と帰依

仏教

アッサジの端正な振る舞いとサーリプッタの解脱

この時代、六人の新興宗教家が名を馳せていました。その中の一人、懐疑論かいぎろん者サンジャヤは250人の弟子と共にマガダ国各地を巡っていました。

サンジャヤの弟子たちの中でも、サーリプッタ(舎利子しゃりし)とモッガラーナ(目連もくれん)は特に優れた存在でした。二人は親友同士で、「もしどちらかが先に生死を超える境地に達したら、必ず知らせ合おう」と誓っていました。

ある日、サーリプッタの目が、ラージャガハの街で托鉢している一人の修行者に留まりました。その修行者は地面に目を落とし、落ち着いた足取りで歩いており、動作一つ一つが整然としていました。

それは、かつての五人の苦行者の一人で仏弟子のアッサジでした。サーリプッタは思いました。

「ああ、この人は真の道を得ている!」

托鉢が終わるのを待った後、サーリプッタはアッサジに近づき、深く礼をして問いかけました。

「尊敬する修行者よ、あなたのすべての感覚器官は澄み渡り、清らかな光が放たれています。あなたの師はどなたですか?」

アッサジは微笑みながら答えました。「私は釈迦族出身の偉大な聖者に師事しています」

「では、あなたの師が説く教えとはどのようなものですか?」

「私は出家して日が浅いため、師の教えを詳細には述べられませんが、その要点を簡潔にお話ししましょう。

もろもろの事がらは原因から生じる。
真理の体現者は、その原因を説きたもう。
またそれらの滅尽をも説かれる。
偉大なる正覚者は、このように説きたもう

この教えを聞いた瞬間、サーリプッタの心には真理を見極める澄んだ眼が開け、解脱げだつしました。

モッガラーナの覚醒と250人の兄弟弟子の帰依

サーリプッタはアッサジに感謝を述べ、すぐにモッガラーナを探しに行きました。

モッガラーナは輝くサーリプッタの姿を見て言いました。

「もしかして、君は真理の道を見つけたのか!?」

「そうだ、友よ! まさにその通りだ」

サーリプッタは経緯を語り、アッサジから聞いた教えを伝えました。それを聞いたモッガラーナもまた、解脱したのです。

モッガラーナは言いました。「すぐに釈迦族の聖者のもとへ行こう。この方こそが私たちが求めていた師だ」

二人は兄弟弟子たちに深く敬愛されていたため、サンジャヤの250人の弟子全員が一緒にブッダに帰依することを決めました。それを知った時、サンジャヤは憤慨して口から血を吐いたと言われています。

ブッダはサーリプッタとモッガラーナが来ることを察知し、弟子たちに向けて言いました。

「見よ、二人の友がここに来る。二人は私の教えの中で輝く星となり、私の弟子の双璧となるであろう」

ブッダはすぐにこの二人をすべての弟子の上座にすえました。やがて『智慧第一』と称されたサーリプッタは、様々な智慧に通じ、そのうえ教団統率にも優れた手腕を発揮しました。『神通第一』と称されたモッガッラーナは、サーリプッタを補佐し、神通力(超能力)で外敵から教団を守護する役割を果たしました。

ブッダが説く:ネガティブな噂への対処法

こうして竹林精舎には千二百五十人以上の出家修行者が集まりました。仏教僧団は堂々とその形を成しました。

ラージャガハにはブッダをねたむ者や、僧団を誹謗ひぼうする者も現れましたが、ブッダの教えの真摯さと弟子たちの誠実な実践は多くの人々を惹きつけ続けました。出家する若者が急増することに対する悪い噂が流れた時、弟子や信者たちにブッダはこう説きました。

「心配するな、これらの言葉は七日間しか持続せず、その後は完全に消え去るだろう。私たちは正しい認識と正しい実践のもとに集っている。なぜ私たちを妬むのか?」

ブッダの予言通り、悪意のある噂はすぐに沈静化し、仏教教団はさらに拡大しました。

釈迦族からの使者とブッダ帰郷へ

ゴータマ・ブッダが故郷を後にして七年の歳月が流れていました。シッダールタ王子が悟りを得てブッダとなり、マガダ国で法を説いているという噂は、釈迦国まで届いていました。

父シュッドーダナ王は、ブッダを都カピラヴァストゥへ招聘しょうへいするために、使者とその従者を派遣しました。

使者たちはブッダが説法を行っている最中に到着し、その教えに心を動かされました。そして何とその場で全員がブッダの弟子になってしまいました。彼らは執着を手放し、使命を忘れてしまったのです。

シュッドーダナ王は、派遣した使者が消息を絶ってしまったことに気づき、次々と新たな使者を送りましたが、彼らもまた戻って来ませんでした。そこで王は、最も信頼できる臣下カールダーインを派遣することにしました。

カールダーインはブッダと同じ日に生まれた幼馴染で、子供の頃にはよく泥遊びに興じた仲でした。彼は王の命令を受けるとこのように答えました。

「もし私の出家をお許しいただけるならば、その役目を果たせるでしょう」

王の許可を得たカールダーインは一ヶ月近い旅をして、竹林精舎に到着しました。ブッダとの旧交を温める中で、彼も出家を決意しました。しかし、王の命令を忘れていませんでした。

「美しい季節が到来しています。自然は花を咲かせ、四方に香りを漂わせ、果実を求めています。尊い御方よ、故郷へと旅立つ時が来ました。この穏やかな季節に、釈迦族にあなたの姿を見せてください。

農民たちは希望を持って種を蒔き、商人たちは海を越えて財を得ます。あなたも、私たちの希望を叶えてください。あなたを生んだ釈迦族の人々は、神々のような存在であり、七世代にわたる父母があなたによって清められるでしょう」

カールダーインの言葉を受けてブッダは、帰郷することを決めました。

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