ヴィヴェーカーナンダは、かつてアメリカで「あなた方はわたしの中にクシャトリヤ(インドの王侯、武士階級)を見た。次にわたしはあなた方にブラーフミン(僧侶、司祭階級)を送ろう。彼は霊性における最高レベルの人物である」と約束しました。そして、トゥリヤーナンダを遣わしたのでした。
トゥリヤーナンダはラーマクリシュナの直弟子の一人です。師の死後は出家修行僧として、その全生涯を苦行に捧げました。これからトゥリヤーナンダの壮絶な人生を追ってみましょう。
少年時代
トゥリヤーナンダは俗名をハリナートといい、1863年1月3日、コルカタのブラーフミンの家に生まれました。申し合わせたかのように、その数日後、1月12日にヴィヴェーカーナンダが、そして1月21日にブラフマーナンダが誕生しています。
ハリナートは幼少期に両親を失い、二人の兄とその妻に大切に育てられました。ハリは少年時代から、正統派ブラーフミンの伝統を遵守し、誰に言われることなく厳しい禁欲生活を送っていました。
一日に三度沐浴し、自分で料理した質素な食事を食べ、固い床で眠りました。ガヤトリー・マントラを規則正しく繰り返し、日の出前に『バガヴァッド・ギーター』を全て朗唱しました。心を欲望から遠ざけるために睡眠を3、4時間以下にして、瞑想に多くの時間を費やしました。
そしてハリナートは一日に8時間から9時間を、聖典の学習に費やしました。ハリは特に『アドヴァイタ・ヴェーダーンタ(不二一元論/ノンデゥアリティ)』の教えに心惹かれました。初めて「人生の目的は今生での解脱である」という一節を読んだとき、彼の心は歓喜で胸が高鳴りました。それこそが自分の人生の目的だと感じたのでした。
ワニに遭遇したとき
沐浴には誰よりも早く、朝の2時か3時に行きました。あるとき、ハリナートがガンガーに入っていくと、水に浮かぶ黒い物体を見ました。ワニでした。ハリは反射的に岸に逃げようとしました。
しかしすぐに「この恥知らずめ! わたしがブラフマンと一つであるなら、何を恐れることがあろう。ましてワニごときを! わたしは肉体ではなく真我(アートマン)である」という思いに心を動かされ、河に踏みとどまり沐浴しました。ワニは彼を襲いませんでした。
この頃、神通力を持つというサドゥー(放浪修行者)が近所にやってきました。毎日多くの人々が彼を訪ねました。ある人は占いを頼み、ある人は病気の治癒を頼みました。ハリは黙って近くに座り、サドゥーの対応を見つめていました。
数日後、サドゥーがハリに尋ねました。「人々はみな、わたしに何らかの助けを求めるが、お前はそうではないようだ。お前は何か質問か問題を抱えているのか?」
ハリは答えました。「師よ、わたしにそのようなものは何もございません。ただ、苦行を行う力、絶え間なく神の御名をくり返す力、および神を悟る力だけが欲しいのです。これがわたしの欲しいものの全てです」
少年の言葉を聞いて、サドゥーはこの上なく感心しました。「ブラボー! ブラボー! わたしの息子よ、君は必ず成功するよ。欲するものを得るであろう」。この言葉はハリを鼓舞し、彼は前にも勝る情熱をもって修行を続けました。
ラーマクリシュナとの出会い
少年ハリナートの熱心すぎる宗教生活を、兄たちは黙って見守っていました。家族の友人が兄に「あなたはハリの変わりように気づいているのか? 彼は僧侶になるのか? 彼に注意して、勉強に精を出させ、出世できるようにしなさい」と忠告しました。
しかし兄は「ハリはブラーフミンの少年にふさわしいことをしているだけです。悪いことは一つもしていません」と弁護するのでした。
ハリナートが13、4歳のとき、パラマハンサ(大覚者)が近所にやってくるとの噂を耳にしました。ハリはパラマハンサを見に行きました。やせ細った一人の聖者が、侍者に支えられながら馬車から降り、酔っぱらいのように信者の家に入っていきました。
聖者は外界を全く意識していませんでした。聖者の顔からは光が放たれていました。この聖者がラーマクリシュナでした。彼が少し外界に気づくようになったとき、壁の大きなカーリー女神の絵を見ました。
ラーマクリシュナはただちに礼拝し、魂を魅了するような声で歌いはじめました。彼の歌声は聴衆たちの心に信仰の波動を呼び起こしました。
お前は神の召使いなのだ
その2、3年後、ハリナートはドッキネッショルにラーマクリシュナを訪ねました。ハリは17,8歳でした。ラーマクリシュナはハリが内輪の弟子であることを即座に認めました。そこで大勢の信者が来る週末を避けて来るように彼に勧めました。
ハリは平日にドッキネッショルにやってきて、師と何時間も語り合うのでした。ある日彼は「師よ、ここにいる間は神性が目覚めたように感じます。しかしコルカタに帰ると、それが完全に消え失せ悲しくなります」と訴えました。
ラーマクリシュナは答えました。「お前は主ハリ(至高者)の召し使いなのだよ。主の召使いはどこにいたって不幸せなはずがない」
「でもわたしは自分が主の召し使いであることを知りません」とハリは反論しました。
「真実は、人が知っているか知らないかで決まるのではない。お前がそれを知っていようと知っていまいと、お前は神の召し使いなのだ」と師は教えました。
性欲の対処法
ハリナートは現世に無関心で、ただヴェーダーンタを学び、解脱だけを目指していました。幼い頃から、女性を忌み嫌っていました。たとえ小さな女の子でさえも、そばに来るのを許さなかったのです。
ある日、これについて師に問われると、ハリナートは「女には耐えられません」と答えました。すると「何と愚かな!」とラーマクリシュナは咎めて言いました。
「女性を見下すなんて。なぜなのだ? 彼女たちは、母なる神の現われなのだ。おまえが母にしたように、女性には頭を下げ、彼女たちを敬いなさい。それが、女性の影響から逃れる唯一の方法だ。嫌えば嫌うほど、その罠にはまるのだ」
このラーマクリシュナの教えは、ハリナートの女性に対する態度を180度変えました。
またある日ハリナートは「どうしたら性欲を一掃することができますか?」と師に尋ねました。ラーマクリシュナはこう答えました。「神のことを思いなさい。それ以外に、性欲から解放される道はない」
この教えは青年ハリにとっての新しい啓示でした。性欲は完全に滅ぼさなければならない、と彼は思い詰めていたからです。
しかし人は性欲を克服しようとあがく代わりに、その強烈なエネルギーを最善の方向、つまり神に向けることを学んだのでした。
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