アドブターナンダの生涯(1)ラーマクリシュナにあこがれた孤児の少年ラトゥ

Ramakrishna world

あるとき、ヴィヴェーカーナンダは兄弟弟子のアドブターナンダについてこう述べました。「聖ラーマクリシュナの最大の奇跡である」と。

ラーマクリシュナは無学の聖者として知られていました。それでも小学校にはある程度通っており、簡単な読み書きくらいはできました。

しかしアドブターナンダは孤児で貧しかったために、学校教育を一切受けませんでした。彼は読み書きすらできなかったのです。

そんな彼が、ラーマクリシュナの導きにより、やがては学者たちも舌を巻くほどの叡智を語るようになったのです。

孤児の少年ラトゥ、召使いとなる

アドブターナンダの生まれた年は分かっていません。インドの北東部、ビハール州のチャプラ地区に生まれ、ラクトゥラームと名づけられ、ラトゥと呼ばれました。

ラトゥの家は大変貧しく、父も母もラトゥが5歳になる前に相次いで亡くなりました。彼は叔父の元に預けられました。

ラトゥは村で育ち、牛飼いの少年たちと野原を自由にさまよい歩き、気ままに暮らしました。しかし叔父の仕事はうまくいかず、ラトゥは小学校に通うことができませんでした。

叔父は借金を抱えるようになり、職を求めてラトゥとともにコルカタまで何百キロも歩きました。ラトゥは医師ラームチャンドラ・ダッタの召使いとして働くことになりました。

少年ラトゥは背丈が低く、がっしりとした体格をしていました。彼は働き者で、生まれながらの素直さと正直さを持っていたため、主人ラームや彼の家族にたいへん愛されました。

あるときラームの友人は、買い物のお金からラトゥが小銭をくすねているのでは、という疑いをほのめかしました。するとラトゥはたちまち怒り出して言いました。「いいですか、ぼくは召使いですが、泥棒ではない! このことをしっかり覚えておいてください」

彼の断固とした口調はその友人を黙らせてしまいました。ラームもラトゥを信頼して言いました。「彼は泥棒ではない。必要なものは何でも彼は妻に頼んでいる」

アドブターナンダ(?-1920)

ラーマクリシュナにお会いしたい!

ラーマクリシュナは、コルカタの北、ドッキネッショルのカーリー寺院に住んでいました。神へのあこがれと渇仰が最高潮に達したとき、ついに彼は見神を果たしたのです。

ラーマクリシュナはさらに様々な修行を次々と成就して、完全なる悟りに到達しました。その後、彼は約束された弟子や信者たちを待ち望むようになりました。

ラーマクリシュナはよく寺院のテラスに立って大声で叫んでいました。「オーイ、わたしの息子たち、お前たちはいったいどこにいる? お前たちなしにはわたしはとても生きられないぞ。早く大急ぎでやってこーい!」

やがて弟子や信者たちが集まり始めました。その最初にやってきた人の中に、ラトゥの主人ラームチャンドラ・ダッタがいました。

彼はラーマクリシュナから救いを得て、熱烈な在家信者となりました。ラトゥは主人ラームがラーマクリシュナの教えを繰り返すのをよく耳にしました。

神は人の心の中をご覧になる。その人が何者か、どこにいるのかは気にしない。神を慕う人、神以外の何ものも求めない人、そのような人に神は自らを現わされる。

純心で夢中になって神を求めなければならない。人は一人になって神に呼びかけ、神を思って泣かなければならない。そうして初めて、神は恩寵を与えてくださるのだ

この教えはラトゥを深く感動させました。彼は生涯この教えを忘れませんでした。時々、ラトゥが毛布に包まって横になり、そっと涙をぬぐっている姿が見られました。

「パラマハンサ(大覚者)って誰だろうか? このような素晴らしい言葉を語る御方は、どこに住んでおられるのか? ドッキネッショル? ここから遠いのかなあ? ご主人に頼んだら、一度だけでもそこに連れて行ってくれるだろうか?」

ラトゥはある日曜日、勇気を出して手を合わせ、興奮して早口でこう願い出ました。「あそこに行かれるのですか? 是非とも、ぼくも連れて行ってください。ぼくはあなたのパラマハンサに会いたいです!」

ラトゥはラーマクリシュナに触れられ、変容する

ラトゥの熱のこもった懇願はラームの心を動かし、彼はそのままラトゥを連れてドッキネッショルに向かいました。ラーマクリシュナはラトゥを一目見ると言いました。

「ラーム、お前がこの子を連れて来たのかい? どこで彼を手に入れたのかね? 彼には尊い印がある」

ラーマクリシュナは教えを説きはじめました。「永遠に自由な魂は、生まれ変わりはするが、決して真の本性、宇宙の主との関係を見失わない。

彼らはまるで、石で出口を塞がれた泉のようなものだ。石工が泉の吹き出し口を見つけてその石を取り除けば、ただちに水が勢いよく見事に湧き出てくる」

ラーマクリシュナは突然、少年に触れました。そのとき、ラトゥの中に凄まじい感情が湧き上がり、肉体と外界の意識を失いました。彼の体毛は全て逆立ち、声は詰まり、頬には涙が流れ、唇は激しく震えていました。

ラームは、この前代未聞の現象に驚いて、口をぽかんと開けたまま、立ちすくんでいました。しかし、ラトゥの異変が一向に収まらないのを見て、ラームは我に返り、師に取り成しをしました。

「これは間違いなく、あなたがおやりになったのでしょう。しかし、彼はずっと泣き続けています」

するとラーマクリシュナは再びその少年に触れました。その瞬間に、あれほど泣きじゃくっていた少年は、正気に戻ったのでした。

少年ラトゥはその後、放心状態のままで日々を過ごしました。彼はラーマクリシュナを強く慕うあまりに、以前のような熱意をもって働けなくなりました。

ラーマクリシュナはラトゥに言いました。「この場所に来たいがために自分の仕事を怠ってはいけないよ。ラームはお前に住まいや、食べ物、服、お前の必要なものを何でもくれる。恩知らずにならないように気をつけなさい」

師からお叱りを受けたと思い、ラトゥの目に涙がにじみました。「ぼくはこれ以上仕事に就きたくないのです。ぼくはここにとどまって、あなたにお仕えすることだけを望んでいます」

「でもわたしはここにはいなくなるんだよ。わたしはカマルプクルに行く。わたしが戻ったらまたおいで」とラーマクリシュナは言いました。彼はこのころ体調を崩していたため、医師から転地療養の勧めを受けていたのです。

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